第2話

ストックあるうちは毎日投稿頑張ります。

☆や♡、コメントください(懇願)

モチベ爆上がりします

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 俺は、昨日の出来事を反芻しながら、ぼんやりと通学路を歩いていた。


 桜井玲奈――クラスで完璧な才女として有名な彼女が、俺の知る『ルナ』だった。

 あのVRゲーム『Virtual Academy』で、ずっと一緒に過ごしてきたルナ。ゲーム内では気さくで甘え上手な彼女が、現実ではあんなにもクールで、距離を置くような態度をとっていた。


(昨日、あんな話をしたのに……今日からどう接すればいいんだ?)


 少なくとも俺にとって、昨日のあの瞬間は特別なものだった。あのとき、玲奈は確かに『ルナ』の顔を見せていた。でも、今日はどうなる? 俺たちはどう振る舞えばいい?


 そんな不安を抱えたまま、俺は教室の扉を開けた。



 ▽▲▽▲▽▲



「悠、昨日の話ってマジ?」


 席に着くや否や、隣の颯真がニヤニヤしながら小声で聞いてきた。


「は? なんの話だよ」


「いや、なんか昨日、階段で玲奈と二人で話してたらしいじゃん。しかも、やたら深刻な雰囲気だったって噂が流れてるぞ?」


(周りに人は居なかったと思ったけど……早くないか、その噂広まるの)


「いや、別に。ちょっと話してただけだよ」


「へぇ~? ま、悠が玲奈とそんな親しげに話すなんて珍しいしな」


 俺は適当にごまかしながら、そっと玲奈の席を盗み見た。


 玲奈は、まるで何事もなかったかのように、窓際の席で静かに本を読んでいた。普段と同じ、完璧な桜井玲奈。その表情は、まるで昨日のことなんて無かったかのように穏やかだった。


(……俺だけあの時間を特別だと思ってたのか?)


 そう考えた瞬間、胸の奥が少し苦しくなった。


 俺が昨日感じたのは、ただの思い込みだったのか?

 あの時の玲奈は、ルナとしての自分を認めたように見えたのに。


「おーい、悠~? お前さっきから何か考え込んでないか?」


「……いや、なんでもない」


 俺は自分の考えを打ち消し、ノートを開いた。でも、授業が始まっても、昨日の玲奈の言葉と、今の玲奈の冷静な態度が頭から離れなかった。



 ▽▲▽▲▽▲



 学校が終わると、俺はそそくさと家に帰り、部屋のドアを閉めた。


 すぐにVRヘッドセットを手に取る。俺が今、どうしても会いたい相手がいる。


(ルナ……いや、玲奈に……)


 ヘッドセットを装着し、ログインする。画面が光に包まれ、目の前に広がるのは見慣れた『Virtual Academy』の学園。現実とは違う、もうひとつの俺たちの居場所。


 そして、その中央に――彼女がいた。


「おかえり、悠!」


 明るい声とともに、ルナ――玲奈が俺の目の前に駆け寄ってくる。


 その笑顔を見た瞬間、俺は胸の奥がふわりと温かくなるのを感じた。


(……やっぱり、こっちの方が、俺の知ってる玲奈に近い)


 ルナはいつも通りだった。俺に甘えるように微笑み、楽しそうに話しかけてくる。


「今日はどこか行く? それとも、部屋でゆっくりお話でもする?」


「……ルナ」


 俺は、言葉を選びながらゆっくりと呟いた。


「俺さ……リアルの玲奈さんと、どう接すればいいのか分からなくなってるんだ」


 ルナは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに優しく微笑んだ。


「そっか……」


「昨日、話したこと。俺にとってはすごく大事な時間だった。でも、今日の玲奈さんは、まるで何もなかったみたいで……」


 ルナは少しだけ考える素振りを見せたあと、ゆっくりと言葉を紡いだ。


「悠は、私にどうしてほしいの?」


「……もっと、素直になってほしい」


 思わず本音がこぼれた。


「ゲームの中のルナみたいに、もう少し俺に心を開いてくれたら、って思う」


 ルナは少しだけ困ったように微笑んだ。


「……ごめんね、悠。私、リアルでは簡単には素直になれないの」


 その言葉に、俺はふと現実の玲奈の表情を思い出した。どこか孤独そうで、でもそれを隠そうとしている顔。


(もしかして玲奈は、俺以上に戸惑っているんじゃないか?)


 リアルの彼女が完璧すぎるから、ルナとしての素顔を見せるのが怖いのかもしれない。


「でもね、私も悠ともっと仲良くなりたいって思ってる。だから、現実の私がぎこちなくても、少しだけ待ってくれたら嬉しいな」


「……待ってみる、か」


 ルナはゆっくりと微笑んで、俺の手をそっと握った。ゲームの中の温もりでも、それは確かに伝わってきた。


「悠、現実でも、きっと私を知ることができるよ。焦らなくていい。私も、がんばるから」


 その言葉に、俺はゆっくりと頷いた。


(焦らなくてもいい……か)


 でも、俺は正直なところ、焦っていたんだと思う。

 昨日知ったばかりの玲奈の本当の姿。ずっと一緒にいた『ルナ』が現実にも存在していた驚きと喜び。


 そのギャップに、俺は玲奈を扱おうとしていた。

 でも、玲奈は玲奈で、きっといろんな思いを抱えている。


「……ありがとう、ルナ。いや、玲奈」


 俺は小さく笑いながらそう言った。


 ルナは一瞬、驚いた顔をしたが、すぐに恥ずかしそうに微笑んだ。


「うん。悠斗、これからもよろしくね」


 画面の向こうの彼女の笑顔は、まるで現実とゲームの狭間で、俺たちを繋ぐ架け橋のように感じられた。




 俺はベッドに寝転がりながら、玲奈のことを考えていた。


(玲奈は、少しずつ現実でも素直になろうとしてる……俺も、焦らずに向き合っていこう)


 でも、本当にそれでいいのか?

 ゲームの中では恋人同士、現実ではまだクラスメイト。


 この関係が、今後どう変わっていくのか――俺にはまだ分からなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る