第9話 トロール、進化する



「とろーるー、戻って来たぞー」


「おう、おかえり」


 拠点に戻り、声を掛ければトロールから元気な声が返ってくる。

 今は休憩中らしく、わざわざ川から持って来たのだろう大きな石に座っていた。


「聞いてトロール。ゴブリンの巣があった」


「やっぱりあったか。どの辺りだ?」


「あっちだけど、独りで制圧できた」


「なにっ? 本当か!?」


「うん。広範囲を眠らせるスキルを進化で手に入れたから」


「なにそれこわっ。俺の近くで使うなよ」


「勿論。自分としてもトロールがいないと安全を確保できないし」


「で、周辺の状況はどうだった?」


「見て回ったけど安全だった。木の実や果実もあったけど、トロールの図体に見合う食料を確保するとなると、早めに何か考えた方がいい」


「そうか……やはり、積極的に何かを襲って食べるか、農業をするしかないか」


「うん。けどここで農業は流石にないと思う」


 だって森の中だし。


「だよな」


 トロールもそれはわかっていたようだ。


「まぁなんとかなるでしょ。私が探して一緒に戦って、トロールがここまで運ぶ。そうすれば少なくとも食料は確保できる」


 多分。


「ああ、そうだな。俺は引き続き拠点作りに励む。お前はもっと広範囲を探索してくれ」


「りょーかい」


 疲れていないので、すぐにまた探索を始めた。

 レベルがさらに上がったからか、移動速度も初期に比べると随分速くなっている。




 湖に到着。

 周辺は苔が繁殖し、中心部は草木が生えていない関係から陽の光が差し込み、水面が光って幻想的な雰囲気を醸し出していた。


「……綺麗」


 思わず口から声が漏れてしまう。


「ん?」


 湖の反対側、その奥の木の間から何かがこちらを見つめていた。


 ……白馬?

 いや、翼が生えてる。

 ペガサスか?


 ペガサスらしき白馬は俺に興味をなくしたのか視線を外し、どこかへ走って行ってしまった。


「……いつか乗ってみたいな」


 気を取り直し、探索を再開。




 森を一望できる崖に到着。


「……思った以上に広い」


 崖から村までそれなりに離れていて、その先の平原の向こう側には街が微かに見える。左右には森が遥か先まで広がっていて、振り返ればでかい山脈が連なっている。山越えは厳しい。


 次行こう。




 別の洞窟に到着。


「グオオオオオオッ!」


 威嚇しながら出て来たのは、三メートル以上もある強面の黒いクマだった。


 よし逃げよう!


 クマは毛皮が分厚く、骨も硬くて生命力も高い。リアルでもヒグマなんかは、ライフル銃を使わないと殆どダメージが入らないと聞く。

 今の俺では眠らせたところで倒せる術がない。

 逃げたらクマの魔物は追って来なかった。




 ある程度見て回り、日が傾き始めて暗くなり始めたので拠点に戻る。

 その道中、足音と巨人が見えて近づいてみると、野生のトロールが歩いていた。


 間抜けな顔してる。これはNPCだな。


「…………いいこと思いついた」


 ニヤリと笑ってしまう。


 これはきっとトロールも喜んでくれる。

 そしてきっと凄い迫力になる。


「へい、そこのトロール」


【ネコパンチ】!


 声を掛けつつ脛を叩けば、トロールが下を向いて俺を見た。


「ちょっと遊びましょ」


 挑発するようにお尻を向けてフリフリ。


「うがー!」


 よしよし、反応した。


 怒ったトロールが追って来たのですぐに逃げる。

 トロールは歩幅こそ大きいが木が邪魔で追いつかれることはない。

 そのまま拠点まで誘導し、物音で既に警戒モードの中身プレイヤーなトロールに交代する。


「あと頼んだ!」


「絶対わざとだろお前!」


 安全な場所に隠れ、観戦準備完了。

 少し遅れてトロールが走ってやって来て、同族であるプレイヤートロールにタックルを決める。

 プレイヤートロールは上手く衝撃を殺して止め、重心を使ってトロールを横に倒した。


 おおおおおおおおおっ!

 思った通り、巨人バトルはすっごい迫力だ!


 プレイヤートロールは下手に追撃せずトロールが起き上がるのを待った。

 トロールが普通に拳を作って構えたのに対し、プレイヤートロールは明らかに格闘技経験者的な構えを取る。


「……来ないのなら、こっちから行くぞ!」


 プレイヤートロールから動いた。

 素早く殴ったり蹴ったりし、トロールが反撃してもあっさりと防いですぐさま攻撃を返す。ダメージが蓄積してトロールが怯んだところで、プレイヤートロールが見栄えのいい技を繰り出し始めた。


 んん!?

 これって……プロレス技だよね?


 次々と技が決められていく。その度にばちんっ、どすんっ、と大きな音が響く。

 最後はプレイヤートロールが背後からトロールを持ち上げ、ブリッジして頭から地面に叩きつけた。


 ワン、ツー、スリー!

 カンカンカンカンカーン!


 と、頭の中にスリーカウントとゴングが鳴り響く。

 タイミングを同じくして、プレイヤートロールも技を止めて立ち上がった。


「ふぅ。なんだかんだいい運動になった」


「おつかれー。中々凄かったよ」


「お前なぁ……まぁいい。これで今日の食料は確保できた」


「そうだね。えっ、トロール食べるの!?」


 それはちょっと予想外。

 同族食らいなんてしたら、何か起きそう。


「ん? あーそうか。俺もトロールだったわ。まぁ、虫とか動物もたまに共食いしてるし、大丈夫だろ」


「進化したりして」


「ハハハ、まっさかー……」


 笑ったトロールは急に真顔になり、倒れているトロールにトドメを刺すついでとばかりにその喉に食らいつき、その肉を飲み込んだ。


 すると次の瞬間、プレイヤートロールの体が光りだした。


 まさか本当に進化するとは……。


 光が収まると、トロールの体は前よりもずっと筋骨隆々となり、血のように赤くなっていた。


「進化おめでとう。種族はどうなったの?」


「……ブラッドトロールだとさ」


「おぉ、カッコイイね。今度からブラッドって呼べばいい?」


「ああ。どうせまた進化するが、仮の名前としてそれでいい。お前も仮でドラって呼ぶことにするからな」


「うん。いいよ」


 ステータスの名前はどうなった?



 名前:ドラ(仮)

 種族名:ドランクキャット

 レベル:8

 スキル:【ネコパンチ】、【ドランクブレス】

 アビリティ:【人語理解】、【酒豪】、【毒耐性・小】



 ……カッコカリ、付くんだ。

 鑑定系のスキルとかで見られたら、ちょっと恥ずかしいな。


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