第8話 強さを実感する



 痛みは無いが体が作り変えられている感覚があり、暫くすると光が収まった。


 ピコン。


 〈身体のダメージ及び状態異常を全てリセットし、進化が完了しました〉


 〈あなたは種族:キャットから、種族:ドランクキャットになりました〉


 〈それに伴い、新たなスキルとアビリティを習得しました〉


 〈スキル【ドランクブレス】を習得しました〉


 〈アビリティ【酒豪】を習得しました〉


 〈アビリティ【毒耐性・小】を習得しました〉


「ドランクて……酔っ払いじゃん」


 自分の行動の結果だから否定はしないけど、ちょっと納得いかない。

 とりあえずステータスの確認と、スキルとアビリティの詳細。



 名前:

 種族名:ドランクキャット

 レベル:5

 スキル:【ネコパンチ】、【ドランクブレス】

 アビリティ:【人語理解】、【酒豪】、【毒耐性・小】


 スキル【ドランクブレス】

 ・高濃度の酒気を帯びた煙を大量に吐き出す。吸った相手は泥酔し、即座に深い眠りに落ちる。


 アビリティ【酒豪】

 ・お酒、または酔いの症状を引き起こす物に強い耐性を得る。


 アビリティ【毒耐性・小】

 ・あらゆる毒に対して少しの耐性を得る。



「うわぁ……泥酔に睡眠とかえぐい」


 効く奴が相手なら、初見殺しやハメ殺しができる。


「見た目はどうなってるんだろ?」


 ステータスを閉じ、体を確認。


 ……一回り大きくなってる。毛の色は変わってないけど。

 それはそれとして――折角倒したんだ。食べなきゃそんそん。

 いただきます!


 というわけで俺はカメレオンの魔物を食べてみた。


 おっ、そこそこ美味い。

 少しクセのある鶏肉みたいだ。


 





 美味しくカメレオンの魔物をいただき、残った部位はお土産にしようと口にくわえてトロールの所へ戻った俺は、進化した自分を見せる為に声を掛けた。


「おーい、これ倒したからお土産。あと進化したんだけど、どう?」


「ん? おお……お土産はともかく、進化したのか。ちょっと大きくなったか?」


「うん。他には何か変わってない? 鏡がないからわからなくて」


 そう言うとトロールは顔を近づけて俺をまじまじと観察した。


「んー……なんか酒臭いぞ」


「あーそっか。種族変わってドランクキャットになった影響だろうね」


「ドランク……ぷっ」


 笑われた。

 ちょっとムッとしたので、怒ったぞって意思表示の為にトロールのすねに軽くネコパンチしてやった。


「じゃあ、進化してどれくらい強くなったか確かめるついでに、色々見て来るから」


「ああ、気を付けてな。酔っ払い」


「酔っ払い言うな!」


 ご機嫌斜めで出発し、早速周りの探索。

 移動しているうちに森の綺麗な空気が気持ちを落ち着かせてくれる。それに魔物とは遭遇しない。平和だ。


 まぁこれが普通だよね。

 今までが確率的に偏っていただけで、広い森で出会うということの方が少ないんだから。


 順調に探索は続き、拠点周辺は見て回れた。

 脅威となるべきものはなく、食べられそうな木の実や果実が多い。それに、キノコも多く生えている。

 俺はあるキノコが気になって、つい立ち止まってしまった。


「……これ、食べたら死ぬかな?」


 傘の部分が虹色になっている、非現実的なヤバい見た目のキノコ。

 ニジイロダケと命名するとして、どんな毒性があってどんな味なのかが気になる。


「……ちょっとだけ。いや、ダメだ。これで死んだらバカだ。トロールに笑われる」


 でも気になる。


「……ちょっとだけ。ほんのちょっとだけ……」


 傘の端っこを食べてみた。


 ……おお?

 美味しいぞこれ!

 マイタケに似た風味で濃厚な旨味がある。


「ん? あれ?」


 景色が変わってる。

 深い森の中にいるはずなのに、足元が花畑になってる。


「……幻覚か。あっ、ちょうちょ」


 青くキラキラ輝くちょうちょが飛んでいく。

 これが幻覚だとは理解している。それでも気になって追ってみた。いくら近づこうとしても青いちょうに追いつくことはなく、いつの間にか走ってしまう。

 青い蝶は洞窟の中へと入り、そこで幻覚の作用が切れて花畑と共に消えてしまった。


「ここは……ゴブリンの巣か」


 洞窟の傍に猟奇的な看板が立っていて、奥から一度戦ったゴブリンと似た臭いがしている。


「丁度いい。ブレスを試すとしよう」


 【ドランクブレス】!


 酒臭い煙が口から大量に勢いよく吐き出され、奥へ奥へと流れ込む。


 いや出すぎでしょ!

 軽く十メートル以上飛んでるし。

 ……効いたかな?


 酒臭くなった洞窟に入ると、通路で数体のゴブリンが倒れてぐっすり眠っていた。


 よし。しっかりと効いてる。この洞窟は攻略したも同然だな。

 おやすみ、永遠に。


 一体ずつ首に噛みついて殺していく。

 レベルが上がって進化したからか、以前と違って喉を噛みちぎることができた。

 静かに処理し終わったところで、奥に向けてまた 【ドランクブレス】。

 それを繰り返して数十体のゴブリンをやったところで、レベルが5から7に上がった。

 洞窟の最奥に到着すると、広くなった空間に数体のゴブリンたちが眠っていた。そして玉座みたいな場所に、明らかにボスっぽい呪術師スタイルのゴブリンが木と骨で作られた椅子に座ってぐっすり眠っていた。


「これ、起きてたら厄介だったかもなぁ。……寝たフリじゃないよね?」


 恐る恐る近づいて足をポンポン叩いてみるが、反応はない。


 ――ヨシッ!


 指さし確認し、寝ているとわかったので周りにいるゴブリンを噛み殺す。

 最期にデザート感覚で残していた呪術師ゴブリンに噛みつき、その喉をちぎった。起きることなく死んだ。


「……思った以上にあっさり制圧できてしまった」


 やっぱり、睡眠攻撃は凶悪だ。

 ステータス!



 名前:

 種族名:ドランクキャット

 レベル:8

 スキル:【ネコパンチ】、【ドランクブレス】

 アビリティ:【人語理解】、【酒豪】、【毒耐性・小】



「一気にレベルが2も上がるか。レベル10になったら、あのイノシシに挑んでみてもいいかもしれないな」


 ステータスを閉じ、呪術師ゴブリンが普通のゴブリンより美味しいかもしれないと思って食べてみる。


「まっず!」


 ゴブリンよりさらに不味い。


 おえー、と吐き出し、俺は拠点へ戻ることにした。


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