「先輩、本当に大丈夫なんですか?」
和佳奈と乃愛(4-1)
コンコン。
私以外には誰もいない教室の入口から、ためらいがちなノック音が響く。
桃花…… じゃないことだけは確かだ。彼女はいつも何も言わずに入ってきて、当たり前のように私の前の席に座るから。
だとしたら――。
「はあい、どうぞ」
「あ、失礼します……」
現れたのは桃花のかわいい後輩だ。私と桃花がこのお芝居をするきっかけをつくった湯川乃愛が、ドアから顔をのぞかせた。
教室におっかなびっくりって感じで入ってきた乃愛に「大丈夫だよ、誰も来ないし」って声かけてみた。
そうですよねって応えながら、乃愛が私の斜め前の席から椅子を引っ張り出してこっちに向ける。
えっそこなんだ。距離感微妙~。
「あの、横根先輩」
「はい、何でしょう?」
桃花を挟んでいない私と乃愛は、他人のままだ。って「桃花とお付き合いする」コトをお願いされた時に会っただけだから、間違ってないんだけど。
乃愛も何だか、未だにここにいることに違和感を覚えてるっていうか、居心地の悪さを感じてるみたいだ。
先輩、ここはちょっと頑張らないといけないかな。桃花のかわいい後輩だし。
「えっと、桃の、露切桃花のことで来たんだよね?」
「あ、はい。そうです……」
「今日はたぶん桃花は来ないと思うんだけど、それで良かったの?」
「はい。えっと、露切先輩じゃなくて横根先輩に用っていうか何ていうか……」
「あ、そういう」
納得した顔で頷いてはみたけど、頭の中はハテナだらけだ。
えっ? 私に? 設定はアレだけどあなたの先輩の同級生ってだけのただの他人なんですけど? 本当に私ですか?
「私に、用事……?」
念のため、もう一度たずねてみる。乃愛が真剣な顔で頷く。ホント、この子まじめだよねえ。
「うん、分かった。じゃあ聞きたいのは例のアレだよね。私と桃と……」
「そうです、そうです!」
かぶせ気味に、乃愛が応える。草越君の名前も続くはずだったけど、それは口の中でモゴモゴと消えていった。
「あの、同じ部の――放送部の子に、『露切先輩って付き合ってるの?』って聞かれたんです」
「おー、良かったじゃん」
そういう計画だったもんね――ってところまで考えが行って、アレって思い返す。
「聞かれたの? 同じ部の子に? 湯川さんが話したんじゃなくて?」
「はい……。実はそうなんです……」
「それは、また……」
人の噂って足が速いね~って感心すればいいのか、部の子に計画のコトが伝わって良かったね~と言えばいいのか、湯川さんの表情からは答えが読み取れない。
「計画では、ですね……。草越先輩に近い人だけに何となく伝えて、そこから先輩に何となく伝わって…… って感じで考えてたんですけど」
「ははあ、なるほどねー」
桃花が言ってたコトとか行動とかと、今の湯川さんの話が全然違いすぎて思わず笑いそうになってしまった。露切先輩、私と教室でギリギリを攻めてたんですよ~ クラスの子たちを相手にして……
あ、ダメだ。湯川さん真面目顔だ。私も、桃花に影響されてこんなリアクション取りそうになっちゃうなんてね……。反省反省。
「それで! あの!」
「はい! すみません!」
私の表情を見てピンときたのか、湯川さんから背筋が伸びるような声が飛んできた。私もびくんと返事する。
「放送部の子から、『露切先輩って、同じクラスの女の子と付き合ってるの?』 って聞かれちゃったんです。私、誰にもそんな風に詳しく話してないのに……」
教室に入ってきてから今まで、湯川さんを取り巻いていた憂いの正体が何となく分かった気がした。
心配、してくれてるのかな? あと自分が思ってた以上に噂が広がって、おおごとになった気がして、怖くなってるのかも。
「まあ、その放送部の子の言ってるコトも、間違いじゃないからね……。そうでしょ?」
そもそもコレって草越君に伝わらなきゃ意味ないし、直接言わずに伝えるって時点でもうコントロールできないことは分かってたし……。
私にとっては、それからたぶん桃花にとっても、このくらいは想定内ってやつの気がするんだけどね。
「そうなんですけど…… あの、先輩……。横根先輩、本当に大丈夫なんですか?」
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