和佳奈と桃花(3-5)
「――次は、体育祭か。2年の時ね~。桃、何に出てたっけ?」
「えーとね、女子バレーと混合リレーだったかな。あ、あと短距離走も出てたかも。確か200メートル走とか」
「うっわ、めっちゃ陽キャの出るやつだ。桃は運動も得意だったんだよねー」
あの日、桃花が作ってきた「思い出ノート」の続き。
最初の日は桃花が持ち帰り、次の時は私が持ち帰り…… を何回かくり返して、だんだんと書き込みが増えてきた。
高校生活の3年間、あまり密だったとはいえない二人の間の出来事。
どのくらい書けるのか最初はちょっと心配したけど、桃花と話したり、桃花のメモを見たりしながら少しずつ、まるで糸をたぐるように色々なことを思い出してきた。それを私も、ノートに書いた。
「宿題」と「答え合わせ」、それから「思い出づくり」
桃花が手芸部での出来事とかも聞きたがったので、思い出せる限りで書いてみた。桃花もお礼にと言って(意味わかんないけど)、放送部での出来事を教えてくれた。
今、ノートの中の私たちは2年生になったところだ。春の体育祭で、桃花が大活躍だったのを聞いたところ。そうそう、この時の混合リレーって確か全種目の一番最後で、うちのクラスが優勝したんだった!
「ふふっ、陽キャとか意味わかんないし。走るのは…… まあ得意だったかな。運動部に入るほどじゃなかったけどね。あとバレーは、バレー部の子に出てって頼まれただけだよ。そういう和佳奈は?」
「桃の次に走ったよ。400メートル走に無理矢理…… 他に出る人がいなくてさ。捨て種目だったし、めっちゃビリだったし、ゴールはしたけどしばらく立ち上がれなくて大変だったんだから」
思い出しただけで、走り終わった後のゼイゼイいう自分の息づかいがよみがえってくるくらいだ。ホント、全員参加って何なんだろうね……。
「捨て種目とか、言っちゃダメ。まあ、ここは点取るぞってメンバー固めてた種目はあったけどね。スポーツ苦手な子もたくさんいたし、そういうのは気にしなくていいの」
「ありがと。桃は本当に優しいねえ。うん、みんな ”おつかれー” とか ”よく頑張ったね” って言ってくれてた気がする。あ、じゃあ桃もさ、疲れ果てて立ち上がれない私のトコに駆け寄ってきたことにしようよ」
「いいね~。書いて書いて」
400メートル走 ビリ 恥ずしかった 倒れてたら桃が助けてくれた
ビリまでは黒いペンで、恥ずかしかったは青いペンで、倒れてからは赤いペンで書き分ける。これは桃花と私で決めた小さなルールだ。
本当にあったコトは黒、その時に思ったコトは青、ニセモノの思い出は赤。
はっきり覚えてる出来事もあれば、ぼんやりとしか思い出せない思い出があって、しかも桃花と私ではそれが違ってたりするから面白い。
ページの左側、出場した種目が多かった桃花の欄は賑やかだ。
200メートル走 確か3位 1組の子がめちゃ早かった
女子バレー 1回戦負け バレー部の莉子が悔しがってた
混合リレー 第3走者 優勝! 和とハイタッチして最高の気分だった
ハイタッチ……? 桃花が迷いもなく青ペンでさらさらとそれを書いて、私も思い出してた。ラスト種目で、ゴール地点にみんなが集まって、優勝!ってなって、さすがの陰キャの私も気持ちが盛り上がって……
そうそう、何となく目が合った桃花とハイタッチしたんだった。
「ハイタッチ、したよね? いいよねこれで」
「うん、大丈夫。思い出した。桃と目が合ってさ、いぇーいって」
桃花が思わず吹き出す。私、何か間違ったでしょうか……
「いぇーいって、素で聞くと面白いね」
「えっだって他に言い方ないじゃん。私みたいな地味な子はなかなか使うチャンスがないから不自然でもしょうがないの!」
「大丈夫。ううん、嬉しい。和佳奈、ちゃんと思い出してくれたんだ」
「体育祭ってあんま覚えてないんだけどさ、あの時はドラマチックだったからね。桃、何人か抜いたでしょ? 私も思わずがんばれーって大声出したもん」
私の言葉に、桃花の手が止まる。ノートの上にペンを置いて、それから左手を高くあげた。
「……?」
「ほら、和佳奈も」
あー、そういうコトね。今は隣り合って座ってるから、私は右手をあげる。
「いぇーい」
「い、いぇーい」
二人だけの教室に、ぱちんと軽い音が響き渡る。あの時の余韻が――これはニセモノの思い出じゃなくて、ちゃんと本物の思い出だ――私の心の中に響いていた。
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