第26話 花野井千聖の演説
私は大股で壇上に登り、美羽子さんを私の背中に隠して、彼女を庇うように両手を広げた。
「花……ちゃん?」
美羽たん……泣いてる。
最前列で見ていたのに、壇上に上がるまで美羽たんが泣いていることに気が付かなかった。
大丈夫だよ。美羽たん。
キミに泣き顔は似合わない。
あの日のデートの時みたいに笑っていさせてあげる。
キミは笑顔が一番可愛いんだから。
「お前ら。よくも私の美羽たんを泣かせてくれたわね!」
下級生だというのに会場中の生徒達を『お前ら』と呼称した。
美羽たんを泣かせる奴らになんて尊敬語を与える必要などない。
「今からお前らの愚かさを思い知らせてやるから! よーく聞きなさい!!」
急遽現れた私の姿に会場中が驚きで染まっている。
舞台袖で見ていたふたみんすら驚いた表情で私のことを見ていた。
「女の子が女の子を好きになって何が悪いの!? そこの貴方! 言ってみなさい!!」
私は最前列で傾聴していた男子生徒を指さして強引に質問を投げかけた。
「えっ? 俺ぇ!?」
「言ってみなさい!!!」
「あ……そ……その……何も悪くないです」
「そうでしょう!! 何か反対意見ある人はいる!?」
会場中が騒めいているが、私の言葉に反対する意見は飛んでこない。
よし。これで女の子同士が恋愛することが悪いことではないことが立証された。
でもそれだけだと足りない。
「そこの貴方!!」
「また俺ぇ!?」
「私は可愛い女の子が大好き! 貴方も可愛い女の子好きよね!?」
「す、好きです」
「私って可愛いよね!」
「そ、それはもう!」
「この子も可愛いわよね!?」
一歩サイドにずれて美羽たんの美顔を全校生徒に改めて見せつける。
泣き顔でオロオロする姿が小動物チックでめちゃくちゃ可愛かった。
そのあまりにも尊い姿に会場中が魅了された。
「「「可愛いです!!」」」
男子も、女子も、教職員の皆様も、全員が声を合わせて同意してくれた。
会場は今一つになりつつある。
「じゃあ、めちゃくちゃ可愛い私と、めちゃくちゃ可愛い美羽たんが付き合うことは素晴らしいことというわけでいいよね!?」
「「「「文句などあるはずがございません!!」」」」
「えええっ!?」
声を揃えて賛同してくれた皆に美羽たんが驚きふためいている。
「同性愛を否定する校則は——?」
「「「「「「今すぐ消滅すべき!!」」」」」」
「みんな! 百合はどう思う?」
「「「「「「「尊い!!!」」」」」」」
「ふたみんに信任投票を入れるのは——?」
「「「「「「「「「我らに与えられし当然の義務!!」」」」」」」」
会場のボルテージは最高潮になっていた。
まるでロックライブのクライマックスのようにハイボルテージになっている。
花野井千聖が今まで培ってきたカリスマ性を最大限に利用させてもらった。
今まで遠巻きに私を見ていただけの人、同性愛を育みたくても出来なかった人、そして百合が大好きで仕方ない人、皆を巻き込んで味方につけた。
「「「「「「百―合! 百―合! 百―合! 百―合!!」」」」」」
生徒会役員選挙は今や百合コンサート会場と化していた。
嗚呼、皆が百合を認めてくれた。皆が百合を求めている。
この場所に……この世界に……百合を否定する者など存在しない。
「じゃ、私、この子と付き合うことにしたんで。美羽たん、今日から私の彼女だよ」
「ふぇぇぇぇぇっ!?」
突拍子もなく恋人宣言されて、美羽たんの顔がトマトのように真っ赤に染まる。
そのいじらしい姿を見て、会場は大盛り上がりを見せる。
「「「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!! 百―合! 百―合! 百―合! 百―合!!」」」」」」」
「は、花ちゃん! ま、まだ信任投票得られてないし、まだ校則が無くなったわけでは——」
「いいの! いいったらいいの! いいよね!? 皆!?」
「「「「「「イエス! 百合マスター!!」」」」」」
「百合マスター!?」
「校長先生もいいですよね!?」
「百合マスターの仰せのままに」
「校長先生!?」
これで本当の本当に私達を邪魔する障害は全て無くなった。
私と美羽たんは公認の恋人となったのだ
「みんなー! ありがとうー! 私達幸せになります!!」
「「「「「「百―合! 百―合! 百―合! 百―合!!」」」」」」
暖かい百合コールを受けながら、私と美羽たんは手を繋ぎながら百合のアーチを潜っていく。
終始困惑した様子の美羽たんも最後の方には小さく微笑んでくれていた。
ああ——やっぱりこの子には笑っていて欲しい。
私の隣で——これからもずっと。
暖かな祝福を受ける千聖と美羽子を見て、二見キラリは舞台袖で小さく言葉を漏らす。
「……いや、なんなのよこれ」
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