第27話

俺は頭痛が収まるのを待ちながら、アリシアに現在の状況を尋ねていた。


「騎士団や学園の人たちはどうなってる?」


「幸いなことに、死傷者は出ておりませんわ。ただ、騎士団や学園の関係者は混乱していて、まともに対応できていないようですの」


アリシアは淡々と状況を説明してくれた。まるで、こうなることがわかっていたかのように。


今回、優勝景品を守るために、騎士団の中でも腕利きが配置されていたはずだ。それにもかかわらず、あっさり盗まれてしまった。混乱するのも、無理はない。


「ただ──」


アリシアが言葉をつなげる。


「レオン様たちが、盗賊団の後を追っているという情報も入りましたわ」


(やっぱり、原作通りの展開か……なら、俺がやるべきことはひとつだ)


「そうか。情報提供、感謝する」


そう告げて、俺は決意を固めた。頭痛はまだ完全には引いていないが、それでも立ち上がり、歩き出す。


「どちらに向かわれるのですか?」


アリシアの問いには、ただの確認以上のものが込められていた。まさか盗賊団を追うのか? なぜ、そこまでしてこの件に関わろうとするのか──そんな疑念がにじんでいる。


「盗賊団を追う。あれは、レオンに必要なものだ」


大切な人たちの未来を守るため、俺は運命に抗わなければならない。

盗賊団のねぐらも、出てくる敵も、原作の知識があれば把握している。今から向かっても、十分間に合うはずだ。


「それと──危険だから、アリシアはこの件に関わらないほうがいい」


原作を変えるには、無茶をしなければならない。そんなことに、彼女を巻き込むわけにはいかない。だから、一言だけ残して、その場を後にしようとした。が──


「私も行きますわ!」


足を止める。俺は振り返り、ジト目でアリシアを見た。


「俺の話、聞いてたか?」


アリシアの目は笑っていなかった。


「私は、あなたがなぜそこまで他人のために動けるのか──それが知りたいのですわ。それを確かめたい」


……本気だ。この状態のアリシアに、何を言っても無駄だということは、これまでの付き合いで嫌というほどわかっている。


俺はため息をひとつついて、ぼそっと言った。


「勝手にしろ。どうせ俺が何を言っても、ついてくるんだろ」


「コア様、私のことがわかってきましたわね!」


「足手まといにはなるなよ」


ーーー


盗賊団のアジトに着いたときには、すでに団員と思われる連中が、そこら中で倒れていた。


「……これはレオンたちの仕業か」


戦った形跡がそこかしこに残っている。切り倒された木々、焦げた地面、そして血の跡。


「もう、レオン様たちはだいぶ奥まで進んでいそうですわね」


アリシアが周囲を見渡しながら言った。


急がなければ──また、あのときのように取り返しのつかないことになるかもしれない。


「そうだな……先を急ぐぞ」


俺は、胸の焦りを悟られないよう努めて言った。


アリシアと並んで、足早にアジトの奥へと進んでいく。


「そういえば──」道中、アリシアがふと口を開いた。


「どうしてコア様は、盗賊団の居場所を知っていたのですか?」


「……」


言葉が詰まった。どう答えるべきか、しばらく考える。


(まさか、“この世界はゲームだった”なんて、言えるわけがない)


そんなことを口にしたら、頭のおかしいやつ認定される。間違いなく。


「今は……言えない」


苦し紛れにそう答えると、すかさずアリシアがたたみかけてきた。


「“今は”ということは、いつか教えてくださる日が来るのですわね?」


まっすぐな眼差し。逃げ道を塞がれるような感覚。


「……俺の目的がすべて達成できたとき。そのときになら、話せると思う」


少し渋りながらも、正直に答えた。


「約束ですわよ?」


アリシアが微笑む。その笑顔には、責める色はなかった。ただ、どこか──信じてくれているような、優しい光があった。

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