第17話
この世界の学園では、座学として2つの科目が特に重視されている。
1つ目は「経営学」。
貴族の子息・子女が将来、領地経営を行うにあたって必要不可欠な学問であり、この科目の成績が「その貴族が領地をどれだけ発展させられるかの指標」となる。
当然、俺にとって最も得意な科目だ。
4年間の領地経営で培った知識と実践経験がある以上、負けるはずがない。
——とはいえ、油断はしない。
前世では、
「回答する場所を間違えた」
「問題を最後まで読まずに回答してしまった」
といったケアレスミスを何度も経験してきた。
だからこそ、慎重に。
何度も見直し、回答にミスがないことを確認する。
俺は自分の間違いを修正できる人間なのだ。
(……これで完璧だ。)
自信満々で答案を提出するとき、思わず「クックック……」と笑ってしまった。
その瞬間——隣のメガネを書けておりいかにもインテリそうな男子が眉をひそめた表情で呟く。
「……キモー。」
(……何も問題ない。断じて傷ついてなどいない。)
だが、次回からは喜びを表に出さないようにしよう。
俺は失敗から学べる人間なのだ。
2つ目は「歴史」。
この科目は「貴族の愛国心を育むため」に重要視されている。
貴族は領地を束ね、王族は貴族を束ねる。
そのため、貴族の影響力は大きく、万が一、反乱が起これば国全体が混乱に陥る可能性がある。
そのリスクを防ぐため、「国の歴史を学び、誇りを持たせる」ことが目的らしい。
(……正直、俺はこの科目が苦手だ。)
理由は単純。
人の名前を覚えるのが苦手だからだ。
オレ、カタカナヨコモジオボエルノムリ。
歴史の試験中、隣のインテリメガネ男子をちらりと見ると——。
「はぁ……はぁ……」
彼は息を荒げ、うっとりとした表情で、まるで宝物を扱うかのように問題用紙を見つめていた。
(……なるほど、歴史オタクってやつか。)
試験終了後、俺は彼を若干引いた目で見つめる。
すると彼もこちらを見たが——今度は彼が傷ついた表情をしていた。
(……まあ、おあいこか。)
その後もいくつかの試験を受け、ついにすべての試験が終了した。
新入生たちは、それぞれの結果を気にしながら、安堵した表情を浮かべている。
「以上で本日の試験は終了だ!」
先生の声が運動場に響く。
「結果は明日開示され、それと同時にクラス分けも行う!それでは解散!」
その言葉を聞いた瞬間、新入生たちの緊張が一気に解けた。
「やっと終わったー!!」
「ねえ、このあとどこか食べに行かない?」
ある者はそそくさと会場を後にし、ある者は積極的に交流を深めている。
当然、俺に話しかけてくる者などいないので、黙ってその場を立ち去った。
ーーー
試験が終わった日の夜、俺は今後のことについて考えていた。
俺はクトーマ家に関する学園内の評判について、ワイズに調査を依頼していた。
結果は「俺が学園内で耳にした噂とほぼ同じ」。
クトーマ家は「悪徳貴族」であり、「反乱を企てている」というデマが広がっていた。
「考えられるのは帝国の策略か……。」
クトーマ家は王国の辺境に位置しており、他の貴族家との関係性が薄い。
父であるアークの脳筋ぶりから見ても、貴族間の交流が得意とは言えない。
そんな状況で、帝国がクトーマ家の悪評を流せば——「クトーマ家の信用を下げ、王国と対立させる」ことが可能になる。
そうなれば、王国が混乱し、帝国の侵略がしやすくなるというわけだ。
「クトーマ家を悪徳貴族だなんて……!」
ワイズは肩を震わせながら声を荒げた。
「コア様がどれほど領民のために行動してきたか……!それを何も知らないくせに!!」
その怒りが俺のためを思ってのものだと分かり嬉しさを感じつつ、俺は静かに言葉を紡ぐ。
「起きたことは仕方がない。」
「……ですが!」
ワイズは強く拳を握りしめる。
「このままではクトーマ家の未来が……!」
俺はふっと微笑んだ。
「……そう慌てることもない。」
「え?」
「むしろ、この状況はチャンスだ。」
ワイズは目を見開く。
「どういう……ことですか?」
俺はゆっくりと夜空を見上げた。
(……最初は、「本当はいいやつだったムーブ」をすることだけを考えていた。)
(けど、それよりももっと優先すべきことができた。)
(それは——クトーマ家が“悪役”として滅びる未来を、俺自身の手で書き換えること。)
いつの間にか、俺にとってクトーマ家は「ただの設定」ではなくなっていた。
俺は領地を発展させるために全力を尽くしてきた。
その結果、領民たちは笑顔になり、俺の元には「ありがとう」という言葉が増えていった。
……その光景を、俺は誇らしいと思った。
(ここで生きて、ここで育ち、ここを守りたいと思うようになった。)
(だから「本当はいいやつだったムーブ」も最悪諦めようと思っていた。)
ワイズが強く拳を握りしめながら俺を見つめる。
「……コア様、私は……!」
だが、俺は静かに微笑み、手を軽く上げて制した。
「焦るな。今すぐ動く必要はない。」
「でも、少しずつ“俺たちのやるべきこと”を始めよう。」
ワイズは一瞬驚いたような表情を見せた後、ゆっくりと頷いた。
俺は夜風を感じながら、静かに目を閉じる。
(そう、これはチャンスだ。)
(俺が「本当はいいやつだったムーブ」をしながら、クトーマ家の未来を変えるための——。)
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