お笑い芸人の俺、転生して本当の愛を知る。

@Takumi_0916

転生

「ええ、仁さんまた番組増えるの~?すごい~」


「そうなんだよ。ほんと忙しくて毎日寝れないぜ」


 ワイングラスをくいっと傾ける。


「まあでも、こんなかわいこちゃんたちと一緒に居たら疲れも吹っ飛ぶよ。あ、今日も払っちゃおっかな~」


「きゃあ、仁さん男らしい!」


 女の子の黄色い歓声。


賞レース優勝、冠番組15本、動画サイトで登録者300万人。俺、三ツ谷仁は世の芸人が手に入れられないであろう称号を総なめにしてきた。今の俺に落とせない女の子は居ない。


「この後はみんな予定あるの? 無いなら俺の家に来なよ」


「あ、えっと……。明日皆朝から仕事なんです、ごめんなさ~い」


「ああ、そうなんだ。じゃあ俺、帰ろうかな」


皆、俺の名前に着いてきているだけ。女の子にもてるために優勝した賞レースも、女の子にもてるために稼いだ金も、女の子にもてるために会得した話術も、結局飲み屋のお代を払うために活かされていると思うと憎い。


「はあ、なんか頭くらくらしてきた」


 店を出てからの記憶があいまいだ。自分がどこを歩いているのかすらわからない。ただ前から強い光が当てられている。その光はどんどん強く大きくなって、なんだか動きがゆっくりに思えてきて、トラックで……。


「え? トラック?」


 気づいたころにはもう遅かった。わずかに減速したトラックは、みじめな俺の身体を跳ね飛ばした。



「いってえ……」


まだ痛む頭を押さえながら起き上がる。新宿の飲み屋街を歩いていたはずだった俺は、ボロボロの石畳の上にいた。まだ意識がぼんやりしているが、ここが新宿ではないということはわかった。


「どこだよここ」


 持ち物を見てみると、スマートフォンと如何わしい絵柄のポケットティッシュ、そしてお金を使いきった後のすっからかんの財布。そして肝心のスマホも充電が切れている。


「んだよ、使えねえな」

 

 俺は石畳にスマホを投げつける。粉々になった画面フィルムをよそに、人を探すため立ち上がった。周りを見渡すと中世っぽい建物が広がっている。多分大通りなのだろうが、辺りに人は全く見当たらない。それに建物は今にも壊れそうな感じで、まるでゾンビ映画のセットみたいだった。


「なんだあの城。いや、ラブホテルか?」


 目に入る中で一番大きくて豪華な建物。まだ酔いが覚めていない俺は、その城のような建物を目指して歩き出した。


 一時間近く歩いただろうか。少しずつ酔いが覚めてきて、俺は今の状況が把握できるようになった。これ、異世界転生だ。


 異世界転生する類いのライトノベルは、高校時代によく読んでいた。今みたいにイケてなかった俺は教室の端っこでのめり込んでいたものだ。そして、今の状況が異世界転生だとしたらこの後の展開は一つ。


「かわいい女の子が……」


 そう呟いた俺の目の前を、一人の女性が通り過ぎる。年齢は二十歳程度だろうか。鮮やかな青色の瞳と、絹のように艶やかな白い髪。今までに出会ってきた人とは何かが違う、美しいという一言では収まりきらないほどの女性だ。


「ちょっと、そこのお姉さん」


 俺は咄嗟に声をかけていた。仕方がない。見知らぬ世界で生きる為、男の……人間の本能だ。


「はい、どうされたのかしら」


 その風貌からは想像がつかないほどに大人びた声で驚いた。


「あ~、そうだね。この石ころだらけのつまらない街の中で宝石を見つけちゃったからさ。俺のなろう作品でのヒロインにふさわしい、ぜひあのホテルに行かないか」


 渾身の口説き文句。一般人が言ったら気持ち悪いかもしれないが、イケメンお笑い芸人として名を馳せた俺なら最高のプロポーズになる。


「何を馬鹿なことを言っているのですか? ホテルなんかに行ってどうするつもりか知りませんが、あれは私たちのお城です。あなたなんかが立ち入れる場所ではないのです」


 彼女はごみを見るような目で俺を見た。


「なっ……」


 俺は闇の高校時代を思い出して固まってしまった。


「異世界の女の子は裏切らないんじゃなかったのかよ!!!」


 


「盛り上がってるところ悪いんだけど」


急に奇声を上げた俺。それを見た彼女は、困惑しながら言った。


「あなたを侮辱罪で拘束します」

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