第四話 雫の願い
それから数日、少しずつ仕事にも慣れてきた。
翡翠さんに引き出しにある薬や備品の場所を教わりながら、神様への接客をする。
「こちらの引き出しには基本薬包紙に包んでいれています。一回分の量で包んであります」
「はい、わかりました」
私はメモを取りながら聞き逃さないように注意する。
その時後ろから女性の声がした。
「こんにちは」
翡翠さんと私が同時に振り返って女性のほうを見る。
スレンダーで上品な女性がお店の入り口に立っていた。
「あ、雫様、ご無沙汰しております」
そういって軽く会釈する翡翠さん。
その女性はゆっくりとこちらに歩いてきた。
質素だけれど品があり美しい紺色の着物を着ていた。
「今日はどうなさいましたか?」
「ちょっと頼みがあってきたんだけど……」
そういいながら私のほうに視線を向ける。
「こちらのお嬢さんは?」
「あ、うちの新しい看板娘です」
「はじめまして、如月芽衣です。よろしくお願いいたします」
私はお辞儀をして挨拶をした。
顔をあげると雫様は微笑んで「よろしく」と言ってくれた。
「また可愛いお嬢さんが入ったわね。薬屋も華やかになったんじゃない?」
「雫様! わしがいるので薬屋は十分華やかですよ!」
「まあ、いまりさんがいたらそうね、癒しになるわね」
そういって雫様はいまりをなでる。
いまり……顔がにやけてるよ……。
「それで、今日はどうなさいましたか?」
「実は友人の旦那様が先日亡くなってしまって、それで友人が心をふさぎ込んでしまったんです」
友人さんのことは存じ上げないが、それは大変気の毒な話だ。悲しいだろう。
「町に出ようと誘っても贈り物をしてもふさぎ込んでしまい、部屋からでなくなってしまったのです」
「そうでしたか」
「それで心を癒す薬をいただきたいのですが、あるかしら?」
心を癒す薬なんて聞いたことない……。
そんな薬をここには置いてるのかな?と翡翠さんのほうをちらっと見て聞く。
「心を癒す薬なんてあるんですか?」
「あるのはあります。しかし、材料が貴重で入手しづらいです。普段なら私が取りに行くのですが……」
翡翠さんは口ごもる。
「困りましたね、私は今から神獣のミコ様のところに薬をお届けにいくところでして……。芽衣さん、薬草を取りに行くのをお願いすることはできますか?」
「行きます! どこにあるんですか?」
「若竹山という山の山頂付近で見つかるヤマトトウキです」
「ヤマトトウキ……?」
すると、腕を組み翡翠さんは語りだした。
「ヤマトトウキ自体は珍しくなく、うちの薬園にもあります。しかし、心を癒す薬に使われるヤマトトウキは茎の部分が金色に光っているんです」
「金色に光ってる……」
それだけでも珍しいことがわかった。
「その山は浄化山として知られていて、人間だと澄みすぎた空気に耐え切れず30分いるのがやっとです」
若竹山は学校の帰り道でよくみていたが、かなり大きな山。
人間で30分……。そんな時間で登れるだろうか……。
すると、雫様の後ろのほうから声がした。
「その山頂まで俺が嬢ちゃんを担いで運んでやるよ」
店の入り口にいたのはなんと岩の神様である岩戸様だった。
「岩戸様……!」
「俺の体力と筋力なら山頂まで10分でいける。どうだ、翡翠、嬢ちゃん」
翡翠さんと私に向かって岩戸様が問いかける。
ありがたい、自分一人では絶対に山頂までたどり着けない。
「岩戸様、お願いします!」
「ああ、嬢ちゃんにはこの前丁寧に看病してもらったしな」
そこまでしてないんだけどなあ……と照れながらも嬉しく思う。
翡翠さんがよし、と決断したようにいうと私と岩戸様に告げる。
「それでは、岩戸様、芽衣さんを頼みます。芽衣さん、くれぐれも気を付けて行ってきてください」
「はい!」
こうして、私と岩戸様は翡翠さんたちに見守られながら若竹山へと出発した―─。
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