第二話 翡翠の秘密

「神様の薬屋……?」

「はい、ここは神様の皆さんが訪れる薬屋「神様の薬屋」です。芽衣さんにはこちらの薬屋の看板娘として働いていただきたいのです」


 神様専用の薬屋さんってこと? って、あれ? 私名前言ったっけ?


「名前……」

「ああ、わかりますよ、如月芽衣さん」


 そういうと私に向けて全力の笑顔を振りまいてくる。

 怪しい……怪しすぎる……。


「じゃあ、私はこれで……すみませんが他を雇ってください、失礼します」


 足早に去ろうとする私に突然声が降ってきた。


「もはやこの薬屋の事実を知ったからには帰すわけにはいかぬ」


 どこからか聞こえる声に私は辺りを見渡す。

 え……どこ…?


 すると、近くにあったカウンターの上にぴょんと謎の物体が飛び乗ってきた。

 それは犬でもなく猫でもない。耳が大きくて、狐の小さい版…茶色い……なんだっけこの動物。

 あ! フェネック! フェネックみたいな動物だ!!


「おい、翡翠! こいつを帰してしまっては薬屋のあらぬ噂を広められてしまうぞ!」


 翡翠は腕を組んで目を閉じて答える。

 

「うーん……僕が無理矢理連れてきちゃったけど、説明だけって言ってたしなあ……」


 あ、覚えてたんだ。なんだ、ちょっとはまともな人そう。


「あ! こういうのはどう?今日一日お試し看板娘!」


「は?」

「ほら! 実際にやってみないとわからないこともあるだろうから……」

「いや、でも」

「給料は出すから! 時給2000円!」

「時給2000円!?」


 時給2000円なんてとてもじゃないがそこらへんではない金額だ。

 ちょうどほしい漫画もあったことだし、今日一日のお試しならいっか……。


「いいですよ、今日一日なら」

「ほんと!? じゃあ早速なんだけど……」


 いや、展開はやっ! もうこき使われるのか。


「あ、そうそう。看板息子がこの……」

「いまりじゃ! わしはお前を認めたわけではないからな!」


(早速敵意むき出しにされた……)


「いまりはマスコットキャラみたいなものだから」


 要するに何も仕事してないんじゃ……なんて言えるわけがなかった。


「あの……」


 またどこからか声がする。どこだ……?


「あの……」


 すると、翡翠がその端正な顔を近づけて耳打ちしてくる。


「下……です」


 言われた通り下を向くとそこにはネズミの姿があった。


「わっ! ごめんなさい!」


 あまりにも小さすぎて踏んでしまいそうになる。

 私はそっと屈むとネズミと話をした。


「えっとお客様でしょうか……?」

「はい、私はネズミの神、小太郎です」

「小太郎様、こんにちは。今日はどうされたんですか?」


 翡翠が「いいですね、板についていますよ」とひそひそと耳打ちしてくる。

 我ながら少し恥ずかしい……。接客業だった前職の癖でつい前のめりに発言してしまった。


「数日前から咳が止まらなくて……こほ……」

「咳ですね、わかりました」


 そういうと翡翠に耳打ちする。


「翡翠さん、咳の薬はどれですか?」

「咳は三種類あります。この三つです」


 そういうと引き出しから三種類の薬を取り出した。

 すると、翡翠は薬をそれぞれ棚に並べて説明をしていった。

 左の薬は丸薬で直径三cmほどあり、効能は細菌性の咳にきく。

 真ん中の薬は錠剤で直径五mmほどあり、効能は熱と咳にきく。

 右の薬は粉薬であり、効能は喘息の咳にきく。

 説明を終えた翡翠は私に問う。


「さあ、小太郎様にはどの薬が適切だと思いますか?」


 薬の処方経験のないわたしにはさっぱりだった。

 だが、ひとまず考えてみる。

 まず、左の薬はないだろう。丸薬で大きすぎる。小太郎さんの口では飲むのは苦しそう。

 真ん中の薬は錠剤で五mmなら入るし、熱にも効くからよさそう。

 右の薬は粉薬だけど、喘息だとちょっと違うんじゃないだろうか。

 つまり、答えは……。


「真ん中の薬だと思います」

「それはなぜですか?」

「あれだけしんどそうにして熱もありそうだし、風邪に効く真ん中の薬じゃないかと」


 翡翠さんは一息つくと、私に回答をいった。


「はずれです。答えは右の薬です」

「喘息の薬ですか? でもなんで喘息ってわかるんですか?」

「小太郎様の様子をよく観察してください。ヒューヒューと聞こえませんか?」


 翡翠さんに言われて私は小太郎様をよくみて耳を澄ませた。


「ヒューヒュー……こほ……」


 確かに言ってる……。


「いいですか? 相手の様子をよく観察して……」


 私は翡翠さんの言葉を遮って質問をした。


「翡翠さん、お湯ってどこにありますか?」

「え? それなら裏手の土間にありますが……」

「ちょっと取ってきます!」


 私はのれんをくぐり、土間にある沸したお湯を飲みやすい温度に冷ますとお店に戻った。

 お店に戻り、棚にある薬を取ると、小太郎様に渡す。


「小太郎様、喘息のお薬です、よかったらここで飲んでください」

「え……こほ……ありがとうございます」


 小太郎様は私から薬とお湯を受け取ると、薬をさらさらっと口に入れて飲んだ。



 しばらくすると小太郎様からヒューヒューという音がしなくなった。


「小太郎様、どうですか?」

「はい、おかげで楽になりました」

「よかった……」


 カウンターの奥から翡翠さんが出てくる。


「小太郎様、五日分薬を入れておきましたので、白湯などで飲んでください」

「はい、ありがとうございます」


 小太郎様は出ていくときに私のほうを見やった。


「あなたはなんというお名前なのですか?」

「え、私の名前ですか? 如月芽衣です」


「芽衣さん、本当にありがとうございました。あなたのおかげで楽になりました」


 そういって、小太郎様は帰っていった。



 翡翠さんが近づいてきて、私に言う。


「その場で飲んでもらうとは、驚きました」

「すみません、あまりにも小太郎様がしんどそうだったのでつい……」

「いいえ、その心が薬屋には大事なのです。あなたは人に寄り添う気持ちがある。薬屋に向いていますよ」


 翡翠さんはそういってにこりと微笑む。

 向いている……はじめていわれたかもしれない。

 嬉しい……。


「どうでしょう……ここで働いてみませんか?」


 私は少し悩んで、決断を下した。



「私、薬屋やってみたいです!」


 そういうと翡翠さんは安心したように「そうですか」といった。


「では早速明日からお願いしますか。学校の終わりで構いませんので来ていただけますか?」

「はい!」


 こうして薬屋の看板娘への道を歩みだした。


「では、わしのことは先輩と呼ぶがいい!」


 どこから出てきたのか、いまりが自慢げに胸を張る。


「いまり……先輩……?」

「もっと声を張れ! わしは翡翠の一番弟子、つまり次の薬の神様はわしじゃ!」


 次の薬の神様? なぜ今神様なんだろうか。


「あの……翡翠さんはなぜ薬屋さんをしているんですか?」

「もちろん薬の神だからじゃ」

「え……翡翠さんも神様なの!?」

「当たり前じゃ、なんだと思っとったんじゃ……」



 私は神様にお仕えして神様に薬を出すという神様ハーレム生活を送ることになりました―─。

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