メイソウノハテニ

きょしょー

第一章 ヌカルミ ヒビ

 雨の染みついた壁紙が、村上健一(32歳)の部屋を覆っていた。

六畳一間のアパートは、積もった埃と諦めの匂いで満ちている。

パソコンの画面には、いつものように求人サイトが開かれていた。

 「また、30歳以下歓迎か...」

 健一は画面を閉じ、天井を見上げた。

大学時代、彼はゲーム開発に魅了されていた。

オブジェクト指向の美しさに感動し、デザインパターンの優雅さに心躍らせた日々。

 しかし、システムエンジニアとして入社した会社での現実は過酷だった。

 「村上のコードは基本的な設計思想が間違っている。こんなスパゲッティコードでは保守できない」

 プロジェクトマネージャーの言葉が今も耳に残っている。

チーム会議での公開処刑。

画面に投影された自分のコードを否定される屈辱。

 その日から、健一の手は震えるようになった。

キーボードに触れるたびに、あの日の記憶が蘇る。

一年で退職し、その後は派遣やアルバイトを転々とした。

完全な引きこもり状態になって三年が経っていた。

 部屋の隅には段ボール箱が積まれている。

その中には、学生時代に使っていたノートパソコンが眠っていた。

自作ゲームのソースコード。

バグと格闘しながら、誰かの心に届くものを作りたいと願っていた日々の記録。

 健一はゆっくりと立ち上がり、段ボール箱に近づいた。

埃を払うと、懐かしいパソコンの姿が現れる。

起動ボタンに触れる指が、わずかに震えていた。

画面が青く光り、古いコードが蘇る。


class GameWorld:

def __init__(self):

self.dreams = []

self.possibilities = float('inf')


「無限の可能性...か」

健一の瞳に、かすかな光が宿った。

心の奥底で、長い間眠っていた何かが、静かに目覚め始めていた。

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