第12話 隠せない秘密



 翌朝、学校に行くと、なんだか周りの空気が違った。


 「ねえ、生徒会長と副会長って付き合ってるの!?」


 「マジで!? なんか昨日、水族館でデートしてたらしいよ!」


 「めっちゃお似合いじゃん!」


 「いやでも、生徒会長と副会長が付き合うってすごくない?」


 ——もう広まってる!?


 昨日、水族館で誰かに見られたとは思っていたけど、まさかこんなに早く噂になるなんて……!


 私は焦って教室へ向かった。すると、廊下で雄也と鉢合わせる。


 「……噂になってるな。」


 「うん……。」


 「どうする?」


 「どうするって……どうしようもなくない?」


 雄也は少し考えて、「とりあえず、生徒会の仕事に影響が出ないようにしないとな」と落ち着いた声で言った。


 「まあ、俺は別に隠さなくてもいいけど、彩花が嫌なら無理しなくていいよ。」


 その言葉に、一瞬迷った。でも、今はまだ整理がついていない。


 「……もう少しだけ、考えさせて。」


 「わかった。」


 雄也は優しく微笑んで、私の肩を軽く叩いた。


 ***


 昼休み、私は紗奈を探し、校舎裏へ向かった。


 「紗奈、話したいことがあるの。」


 紗奈は私を見て、少しだけ戸惑ったような顔をしたけれど、「……いいよ」と頷いた。


 「昨日のこと、噂になってるの、知ってる?」


 「……うん。」


 「本当は、すぐに言うつもりじゃなかったんだけど……私、雄也と付き合うことになった。」


 言葉にするのが怖かった。でも、これだけはちゃんと伝えないといけない。


 紗奈は一瞬目を伏せ、それからゆっくりと私を見た。


 「……そっか。」


 それだけだった。でも、その声はどこか寂しそうだった。


 「……紗奈。」


 「ううん、大丈夫。」


 紗奈は笑おうとしたけれど、少しだけぎこちなかった。


 「やっぱり、まだちょっとだけショックかも。でもね、わかってたんだ。雄也が好きなのは、彩花なんだって。」


 「……ごめん。」


 「謝らないでよ。」


 紗奈は少しだけ涙ぐみながら、私の手をぎゅっと握った。


 「好きな人にちゃんと気持ちを伝えられたのに、落ち込んでるの、なんか変だよね。」


 「……そんなことないよ。」


 私は紗奈の手を握り返した。


 「ありがとう、紗奈。私、本当に紗奈が大事だから……これからも友達でいてほしい。」


 「……うん。」


 紗奈は涙をこぼしながら、でもちゃんと笑ってくれた。


 ***


 放課後、生徒会室に行くと、雄也が待っていた。


 「彩花、どうする?」


 私は少し息を吐いて、雄也の目をまっすぐ見た。


 「……私、付き合ってること、公表する。」


 雄也は驚いたように目を瞬かせ、それから優しく微笑んだ。


 「そっか。じゃあ、一緒に伝えよう。」


 生徒会長として、副会長として、そして——雄也の彼女として。


 私は、もう迷わない。


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