第4話 近くて遠い君

放課後、生徒会室に行くと、雄也が一人で書類整理をしていた。窓から差し込む夕日が、彼の横顔を照らしている。


 「何してるの?」


 私が声をかけると、雄也は手を止めてこちらを見た。


 「ちょっと、今日の会議のまとめを整理してた。彩花も手伝ってくれる?」


 「もちろん。」


 私は彼の隣に座り、プリントを手に取る。雄也の字は相変わらずきれいで、几帳面な性格が表れている。


 「そういえば、さっき健と一緒に帰ってたよな?」


 雄也が何気なく言った。


 「見てたの?」


 「たまたまね。仲良さそうだった。」


 「まあ、小学校の頃から一緒だしね。」


 「……そっか。」


 雄也の声が、少しだけ低くなった気がした。でも、そのまま何事もなかったように作業を続ける。


 (今のって、気のせい……?)


 雄也は誰にでも優しい。だから、彼の感情を読み取るのは難しい。だけど、今の反応は、なんとなく引っかかった。


 ***


 生徒会室での作業を終え、廊下に出ると、剣斗が待っていた。


 「先輩、お疲れさまです!」


 剣斗は生徒会の書記で、いつも明るく元気な後輩だ。


 「お疲れ、剣斗。どうしたの?」


 「明日の会議で使う資料、チェックしてもらおうと思って!」


 剣斗が差し出したプリントを見ると、しっかりとまとめられていた。


 「すごいね、完璧じゃん。」


 私が褒めると、剣斗は少し照れくさそうに笑った。


 「先輩みたいにちゃんとできるようになりたいんで!」


 「私、そんなにすごくないよ。」


 「いや、すごいです! だから……その……。」


 剣斗が言葉を詰まらせた。その顔が少し赤くなっているのを見て、私はピンときた。


 (もしかして……。)


 剣斗は私に憧れて生徒会に入ったと言っていた。でも、それが“ただの憧れ”なのか、それとも別の感情なのか——。


 「じゃあ、これでお願いします!」


 剣斗は勢いよく頭を下げると、そそくさと走っていった。その背中を見送りながら、私はなんとも言えない気持ちになった。


 (私、誰かに想われることには慣れてる。でも——。)


 自分の気持ちには、まだ答えを出せずにいた。


 ***


 帰り道、紗奈からメッセージが届いた。


 「彩花、今度放課後空いてる? ちょっと話したいことあるんだ!」


 (話したいこと……?)


 なんとなく、嫌な予感がした。

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