第3話 戻れない距離



 生徒会の仕事を終えて校門を出ると、そこには健が立っていた。


 「彩花、たまには一緒に帰らない?」


 健は風紀委員の腕章を外しながら、自然な口調で言った。少し驚いたけれど、拒む理由もない。


 「うん、いいよ。」


 並んで歩き出すと、健はどこか懐かしそうな顔をしていた。


 「なんか、昔みたいだな。」


 「そうだね。」


 私たちは小学生の頃からずっと一緒だった。健は優しくて、まっすぐで、どんなときも私を大事にしてくれた。


 小4のある日——。


 「お前、生意気なんだよ!」


 男子たちにからかわれて、私は泣きそうになっていた。そんなとき、健が突然私の前に立った。


 「彩花を泣かせるなよ!」


 真剣な顔で怒る健を見て、からかっていた男子たちはあっさり引き下がった。


 「……大丈夫?」


 「うん、ありがとう。」


 その日から、私は健を少し意識するようになった。小6のとき、健に「好きだ」と言われて、私は嬉しくて「私も」と答えた。


 付き合い始めたけれど、私たちは子どもすぎた。中学に入ってから、私が生徒会の仕事で忙しくなり、健は風紀委員として違う道を進んだ。すれ違いが増え、いつの間にか「ただの友達」に戻っていた。


 「ねえ、健。」


 ふと思い出したことを口にする。


 「小学生のとき、私が男子にからかわれてたとき、助けてくれたよね?」


 「……ああ、そんなこともあったな。」


 「本気で怒ってたよね。ちょっと怖かったくらい。」


 健は苦笑した。


 「そりゃ、大事な人が泣きそうになってたら、普通怒るだろ。」


 「……。」


 大事な人。


 健は今でもそう思ってくれているのかな。


 「——あの頃は、楽しかったな。」


 ぽつりと呟く健の声が、どこか切なく聞こえた。


 私は答えられなかった。



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