あと99日 クソ教師のクソ采配。
9月16日。
「何よ、嫌がらせっ!?」
月曜日の朝。
早乙女が俺の机を思いっきり叩く音で一週間が幕を開けた。
一触即発の僕達の様子に、にわかに教室内がざわつき始める。
「……一体何の話だよ」
「この前の
何でアンタがいたのよ、気色悪い!!」
「……はぁ?」
凄い剣幕に、僕のボルテージも自然と上がってしまう。
「僕は祭りにも行っちゃいけないのか?」
「そうよ!!
アタシの視界に入ることすら許さない!!!
幸せな時間がぜーんぶ台無しになったじゃない!!」
お互いに無視することで、僕自身もあの邂逅を無かったことにしようとしたのに。
早乙女の言っていることは無茶苦茶。
僕のことは嫌いなのは分かる。
でも僕だって同じ気持ちだ。
せっかくの楽しい時間が台無しになったと感じているのは、何も早乙女だけじゃない。
「干渉しなかったんだから別にいいだろ!?
直接的に邪魔したわけでもないし!
何で見なかったことにできないんだよ!!」
「まぁまぁ、早乙女さんも落ち着いて……。
凪のことを誘ったのは俺なんだ。
コイツ隙あらば引きこもろうとするからさ……。
そのせいで早乙女さんが嫌な思いしたのなら……、俺も謝るよ。
ホントにごめん」
深々と頭を下げる哲。
それを見て、僕は何かがプツリと切れる音がした。
どうして。
どうして関係ない哲がここまで。
この女は、本当に最悪だ。
自分のことしか考えられない、もう……病気だ!
「哲っ!!
お前が頭を下げることはない!
僕達は何も悪いことしていない!!」
「そうよ!
横山君は全然悪くない!
諸悪の根源はコイツよコイツ!!」
僕のことを指さす早乙女。
どうやら徹底的に闘り合うつもりらしい。
そちらがそのつもりなら僕だってひくつもりはない。
とことん、闘う意志はある。
騒然とする教室内。
普段であれば、哲が僕達を止めることで事なきを得るのが日常だったけど、今回はどうやら様子が違うらしいことにクラスメイトも気付き始めている。
僕だって、こんな不毛なやり取りをしたくない。
だからといって、友だちが頭を下げている現状。
好き勝手言わせておけば、調子に乗りやがって……!!
「そんなに僕のことが嫌いなら、無視でも何でもして気にしなければ良いだろ!?」
「それができたら苦労しないのっ!!
アンタも
「っ……!!」
早乙女の言っていることは、図星。
無関心であれば意識の中には入ってこない。
しかし、下手に嫌悪感を持っている相手だから余計に意識してしまうと、早乙女はこう言っているのだろう。
「お願いだから、もう邪魔しないでっ!
これ以上、アタシの人生をグチャグチャにしないでよ!!」
「……!!」
人生を、グチャグチャに?
誰が。
……僕が?
何言ってんだ、この女。
人の人生をグチャグチャにしたのは、どこの誰だよ。
視界がぼやける。
人ってキレすぎると周りが見えなくなるってホントなんだ。
顔が熱い。
ありとあらゆる罵詈雑言を、コイツにぶつけてやりたい。
もうどうなってもいい。
ただ、コイツを傷つけるためだけの言葉を……!!
胸の中に渦巻く激情を以て、コイツを……!!
「おーい、座れー」
怒りに身を任せようとした、その時。
場違いなほどに呑気な声が、教室に響き渡った。
「コバ先……」
「早乙女ー。
本人を前にして略称はダメだー。
小林先生と呼べー」
怒りが徐々に引いていく感覚。
時計を見ると確かに既に始業の時間を過ぎていた。
僕らの担任である小林先生が教室にいるのも頷ける。
「……小林先生、ナイスタイミングっす」
苦笑いを浮かべながら親指を上げる哲。
するとそれに同調するかのように、クラスメイトが頭を上下に振り同意の意を示した。
「オマエらー、席に着けー。
HR始めるぞー」
今年で四十代後半に突入する我がクラスの担任は、最近薄くなってきたとボヤいている頭頂部をさすりながら、僕達を席につくように促す。
すると早乙女は「っ……!!」と憎々しげに僕を見やり、諦めたかのように自分の席へと戻っていった。
「……早乙女と杉下は、本当に仲が良いなぁ」
「「はあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」」
僕と早乙女の声が、見事にシンクロした。
「さっき何見てたんですか!?
僕らが仲が良い!?
冗談でしょ!!」
「そうです!
撤回してください!!」
「ハッハッハ、息ピッタリじゃあないかぁ」
何呑気に適当なこと言ってんだこの人!
他人事だと思って!!
「じゃあそんなことは置いといて、連絡を始めまーす」
「「ぐぬぬ……!」」
こんの適当教師め……!!
完全に面白がっていやがる!
「来週から考査が始まる。
各々しっかり準備をして臨むように」
えー。
マジで無理ー。
教室の方々から漏れる声。
ついこの前考査が終わったばかりだと思っていたけど、もう来週に迫っていたのか。
考えないようにしていたから、気付かなかった。
やがて来たる辛い現実に生気を無くしている僕らを、小林先生は楽しげに一瞥し、そして口を開く。
「……それが終われば、オマエらお待ちかねの
「よっしゃーーーーー!!!」
「来た来た来たぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!」
「一年、長かった……!!」
皆のテンションの上がりようといったらもう……。
完全に小林先生の掌の上で転がされている。
我が櫻ヶ丘高校では、いわゆる文化祭的な一大イベント、通称『櫻高祭』が毎年十月下旬頃に開催される。
あまり行事という行事がない自称進学校であるため、全校の生徒は首を長くしてこの季節の到来を待っている。
特に三年生は受験前最後の対外的な行事であるため、ここぞというはっちゃけポイントとなっている。
「考査を挟めば、大体あと一ヶ月に『櫻高祭』が迫っているわけではあるが、例年通り各クラス二人、実行委員を出さなければいけない」
―――――打って変わったように静まりかえる教室。
二年生だから、僕達はその理由が分かる。
櫻高祭実行委員。
それは言ってしまえば、期間限定の職種ではあるけれど、外部との渉外、全体的な計画立案、スケジュールの調整等々、仕事がわんさかある。
有り体に言えば……無茶苦茶忙しい。
去年、その様子を見ているからこその皆の沈黙。
学級のことだけてんやわんやなのに、文化祭全体の運営に関わるなんて、そんな面倒なこと、よほどの物好きでない限りやる人は……。
「早乙女、杉下」
「「……?」」
「オマエら、やれ」
小林先生が何を言っているのか、理解するまでにたっぷり十秒―――――。
「「っ――――――はああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」」
同じタイミングで、教室内に本日二度目の嬌声が響き渡った。
「なんだ、嫌か?」
「あ、当たり前ですっ!
どうしてコイツなんかと!!」
「そうです!
考え直してください!!
ってか、絶対無理!
嫌っ!!!」
互いに言いたいことを叫んでいる僕達を、小林先生はこれまた呑気な顔で交互に見ている。
「……社会に出れば、気の合わない相手と一緒に働くことだってある。
いがみあっていても何も変わらない。
オマエらは、いっちょここで
「っ……!!」
違う。
違うんです、先生。
気の合わない相手、なんてもんじゃない。
僕達はもっと深い深い
そんな相手と共に……?
無理に決まって……!!
「異論反論は受けつけん。
では二人とも、よろしくな」
「「……!!」」
この話はこれで終わり、というように小林先生は別の連絡を話し始めてしまった。
恐る恐る早乙女の方を見た。
早乙女も、僕の方を見ていた。
目をかっぴらき、何か信じられないモノをみたような顔をしている。
そしてそれは僕も同じなんだろうな、と他人事のように思った。
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