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綺麗…………。
ふんわりと宙を舞う花束は、まるでスローモーションのように私目掛けて飛ぶ。
人々の歓声がシャワーのように降り注ぎ、群衆の手が空を切るのを真後ろで見ながら、私も同じようにつま先立ちをして、真っ直ぐと両手を空に掲げた。
ぽすん、と。私の胸の中に飛び込んできた幸せの象徴。
──「え、」
しかし、受け取った瞬間、突然体制を変えたせいでぐらりと身体が傾いてしまい、よろよろとよろめいた。倒れる。その四文字が頭を過ぎるのは必然。
「わ、わわっ……!」
不幸に慣れてしまったからか、倒れるのはあきらめブーケを守るように抱きしめた。けれども、想定された悲惨な事態とはならなかった。 私の身体は、別の誰かによって支えられていたからだ。
「やば、かっこいい……」
「素敵……」
まるで芸能人を見た時のような、ため息混じりの乙女の声も同時に聞こえて、硬化した思考回路がばらばらに崩れるのを感じ、ハッと見上げた。
寄りかかった私を受け止めるその人は当たり前に知らない人で、下から見ても分かるほど恐ろしいほど美しい男性だった。
長いまつ毛が縁取る、色素の薄い瞳が私を見つける。青空の下だからブラウンがより際立つ。瞬きひとつでさえ芸術のような男性だ。完成された美はこんな感じなのかと、そんな錯覚さえ覚えて見蕩れること数秒。
「……っあ、ごめんなさい」
遅れて謝罪すれば、微動だにしなかったその口が小さく動く。
「……だる」
低い声は治安の悪い言葉を紡ぐので、今度はしっかりとした不安に襲われた。
「
見知らぬ美人さんが、かなと、と呼ばれたその人へ駆け寄ると、ボディタッチを送った。物理的な距離が親密さを物語っている。
「ああ、うん。拾った」
「(……拾った?)」
奏叶、という人が私の肩を抱く。彼が無表情をやめて柔らかな笑顔を浮かべたとき、見知らぬ美女たちが、私へ非難の目を向けた気がした。
「……え?嘘だよね」
美女の目が笑っていない。
「嘘だよ」
奏叶、という人はそれを見て楽しそうにする。
「え、待って、本当にうそだよね?」
「ていうかお酒もう無いの?もらいに行こう」
うっすらと感じていたけれど、私はお邪魔虫、または戦犯。
「(あ、お礼言うの忘れちゃった)」
感謝を伝え忘れたことのほうが私にとって罪深い。
「結城〜!良かった、私絶対結城に渡したかったから、受け取ってもらえて嬉しい!」
本日の主役が、輪を抜け出して駆け寄ってくれた。
「ごめんね、私が貰っちゃって」
「何言ってんの。それより、大丈夫だった?」
「うん……あの男の人に助けられたみたいだけど、却って迷惑掛けたかも」
目線を送ると、有馬は「 ああ」と、頷いた。
「奏叶ね」
「知り合い?」
「うん。幼なじみってやつ。奏叶、最近まで海外赴任してたから直接会うのは久々なんだよね」
「へえ……あの顔で仕事もできるんだ」
「ね、女には一生困らない人なんだよ」
ふうん、と頷きながら有馬の幼なじみをインプットする。
「(あとで一応、きちんと謝罪しよう……)」
結婚式のミッションが追加された。有馬との会話も終わり、私はミッション成功の為、奏叶、という人にお礼のタイミングを伺っていた。けれども彼の周りはつねに、ひとが囲っており、声をかけるきっかけがわからない。
大縄跳びが苦手だったなあと過去の体育の成績を思い返しながら、時計を確認した。時間的にもまもなく結婚式は終わるだろう。
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