一条月華その2⑤

 昼休み。


 これ以上、アキちゃんのメンタルを破壊しないためにも、俺は月華げっかと共に昼食を取ることに。総菜パンを片手に教室から出ると、どこからともなく重箱を抱えた月華げっかが登場。

 そのまま、二人で屋上へと向かうことになった。

 財閥の美人な令嬢と二人きりでご飯と聞くと、ときめくかもしれないだろう?


 でも、こいつブリーフはいてるんだぜ? やべぇよ、マジで。


わたくし、嬉しいです……。こうして、誠也あきなり様とお二人で……」


 ベンチで隣同士に座り、頬を朱色に染めてモジモジするブリーフ。違った、月華げっか


 なお、ここに来るまでの間にアキちゃんからは、『絶対に、月華げっか様の下着を見ないでくれ』とメッセージが入った。

 果たして守りたいのは、月華げっかの貞操か、自らのブリーフか。


 兎にも角にも、俺は今、ブリーフを巡る戦々恐々の昼休みへと突入した。

 もちろん、スマートフォンをアキちゃんと繋いでいるので、会話はアキちゃんにもしっかりと聞こえている。っていうか、屋上の入り口にいる。

 チラッとドアを開けて、ものすごく涙目でこっちを見てる。ちょっと可愛い。


「ま、まぁ、それはお互い様かな。俺も一条いちじょうと……」

誠也あきなり様……『月華げっか』で構いませんわ」

「いや、さすがに呼びづらいよ。ほら、一条いちじょうってすごいところの人だろ?」

「そんな……。私なんて、大したことありませんわ。どこにでもいる平凡な女で……」


 そうか。ブリーフをはいたどこにでもいる平凡な女か。平凡か?


「俺と比べたら、充分すごいよ」


 主に、ブリーフをはいてるところが。


「ふふ……。誠也あきなり様は、自己評価が低すぎますわ。もっと自信を持って下さいまし」


 そういえば、一周目でも月華げっかはいつもこんな感じだったな。

 高飛車ではあるのだけど、俺のことはいつも持ち上げてくれて……。


「ありがとな。じゃあ、少しだけそう思うことにする」

「ええ。是非」


 はにかむ月華げっかはとても魅力的で、思わず……ときめかないな。

 どう頑張っても、脳裏にブリーフがよぎってときめきが打ち消される。


「それにしても、風が気持ちいいですわね……。とても気持ちのいい風で……」


 食事を終えて一息ついた後、月華げっかがおもむろに立ち上がった。

 相変わらず、スタイルがいいな。

 月華げっかの長い足がほぼ全て……ん? ちょっと待て。

 なんかスカートがやけに短く……


阿東あとう月華げっか様を座らせて! 月華げっか様の狙いは――』


「あら、いけませんわ! 風が私のスカートを……」

「そぉい!」


 あっぶねぇぇぇ!! 咄嗟に立ち上がり、体を使って月華げっかを風から全力でブロック。

 この女、風を利用して意図的にスカートをめくりあげて、下着を見せようとしやがった! アキちゃんのブリーフを、俺の眼前に広げようとしたのだ!


『早く! 早く座らせて! やだ! 阿東あとうに見られるのやだっ!』


 ワイヤレスイヤホンから、アキちゃんの必死の願いが響く。

 そんな可愛い声で言われなくても、もちろん分かっているさ。

 俺だって、ブリーフ着用のお嬢様なんて見たくない。そんな特殊な性癖はない。


「風が強いし、座っていたほうがいい。その、めくれちゃうかもだし……」

「そうですわね。では、そうさせて……いけませんわ。足がもつれてぇ~」

『あとぉぉぉぉぉぉぉ!!』

「そそぉい!」

「きゃぁ!」


 咄嗟に俺は月華げっかの体を抱きしめて、意図的に転ぶのを阻止した。


誠也あきなり様、そんな力強く……」

「こ、転ぶと怪我をしちゃうからね……」


 この女、やばすぎる……。

 けど、いい匂いがするなぁ。それに、髪の毛もサラサラで……


『おい、阿東あとう。早く離れろよ……』


 はい、分かっています。分かってますから、そんな不機嫌な声を出さないで。

 ひとまず、月華げっかをベンチに座らせて、俺も隣に。

 そのまま、月華げっかが体を近づけてきた。


「ふふふ……。誠也あきなり様は、思った以上にたくましいのですね……」

「大したことない。別に鍛えてるわけでもないし」

阿東あとう、まだ近い。もっと離れて』


 俺だって離れたいけど、この子くっついてくるんですよ。


「まるで、お父様みたいですわ……」

「お父様?」

「ええ。お父様はとてもお優しい方ですの。いつも私に優しくしてくれて、怒られた経験も、叩かれた経験もないのですわ」

「そう、なんだ」

「きっと誠也あきなり様のことも気に入ると思いますわ。つきましては、今週の土曜日に顔合わせも兼ねて、私の家にご招待したいのですが……」


 とんでもねぇゴリ押しできたな、おい!


「い、いやぁ~! さすがに、それは緊張するって! また別の機会にでも……」

「ふふふ。捕まえて拷問するわけでもありませんし、そんなに緊張しなくても大丈夫ですわ」


 将来的にはするけどな。

 助け出されたと思ったら、ただ捕まり直しただけでほんと地獄だったよ。

 しかし、どうする? このままでは、確実に月華げっかは豪邸招待をゴリ押してくる。

 何とかこの場から逃げ出さなくては……む? チャイムが鳴った!


「そろそろ昼休みも終わるみたいだな! じゃあ、一条いちじょう。俺はこれで……っ!」

「あっ! 誠也あきなり様! まったく、照れ屋さんなんですから……」


 チャイムが鳴って、よかったぁぁぁぁぁ!!

 咄嗟に立ち上がり屋上の入口へと逃げ込んで、そのまま階段を下る。

 すると、屋上の入り口近辺に隠れていたアキちゃんが、続いて降りてきた。

 いつの間にか、追い抜いていたらしい。


「ありがとう、阿東あとう! ほんとに、ほんとに危なかったよ!」


 感謝を告げるアキちゃんだが、何だかやけに下半身をモジモジさせている。

 そういえば月華げっかはブリーフを、アキちゃんは黒パンティをはいているんだよな。

 男が、女物のパンツをはくとどうなるんだろう? ちょっと興味がある。


「アキちゃん、良ければズボンを脱がしてもいいか?」

「変態よ、今すぐ教室に戻れ」


 ものすごく冷たい声で拒絶された。さみしいぜ、真友ガチマブ


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る