一条月華その2④

 突如として訪れた、恐怖の下着閲覧が控える三限終わりの休み時間。

 色んな意味で大ピンチの状況だが、ここまでに何一つとして収穫がなかったわけでもない。

 どうやら、俺が思っていた以上に月華げっかとアキちゃんは、深い関係のようだ。


 だって、そうだろう?

 下着を交換したということは、お互いに下半身を披露しても問題のない関係ということだ。そんなこと、心を許した相手にしかできることじゃない。

 つまり、アキちゃんと月華げっかが恋人同士になれる可能性は、充分にある。


「ほら、誠也あきなり。行くよ」


 しかし、それは後の話。まずは、目先の関門を突破しなくてはならない。

 このままでは、俺はブリーフ月華げっかの姿を拝覧することになってしまう。

 アキちゃんも、自分の慕う令嬢のブリーフ姿など、俺に見られたくないのだろう。

 分かっているよ、アキちゃん。俺は真友ガチマブのためであれば、どんなことでもできる。


「いや、ダメだ」

「はぁ? 何言ってるの、一条さんが心配じゃ……」

「その前にトイレだよ、トイレ! さっき、宇宙そらのせいで行けなかったから!」

「あ……。じゃ、じゃあ終わった後でも! ほら、私、外で待ってるから!」


 この女、教室の外までついてきやがった!

 ついでに、少し離れたところに月華げっかとアキちゃんがいる。

 アキちゃんが、涙目で必死に俺へ訴えているじゃないか。任せろ、真友ガチマブ


「女子に男子トイレの前で待たれるなんて、ごめんだ! ていうか、時間がかかるほうだから、休み時間中に終わるかも分からない!」


 恥じらいなど知ったことか。

 アキちゃんは、黒レースの下着を着用して、一日を過ごさないといけないんだぞ!

 体育とか、どうするんだよ!


「時間がかかるほうって……、それ、なんとか早く出せない?」

「出るか! 俺のうんこをなめんじゃない! 粘り気がすごいんだ!」

「う……っ! わ、分かったよ! じゃあ、お昼休みでいいから……」


 ええい、この女は本当にネバーギブアップだな! 俺のうんこか!

 このままでは、この休み時間を突破したとしても次の昼休み、午後の休み時間、放課後のどこかで強制的にブリーフ月華げっかが顕現してしまう。

 かくなる上は……


「昼休み? 俺、昼休みは誰かと昼食を食べたいんだよなぁ! たとえば、お上品なお嬢様とかに誘われたら、大喜びで二人きりで食事を――」

誠也あきなりさまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 とんでもない勢いで、一人の女が俺の下へやってきた。月華げっかである。

 狙い通りではあるが、勢いがすごすぎてちょっと引く。

 これぞ、肉を切らせて骨を断つ。

 月華げっかは、俺と交流する時間が欲しくて仕方がないはずだ。

 だからこそ、差し出そうではないか。アキちゃんのブリーフを守るために。


「偶然ですわね! 実はわたくし、お昼休みは都合よく時間が空いておりまして……」

「悪い! ちょっと今は、急いでるから!」

「あっ! そうでしたわね。どうぞご遠慮なく、お脱糞をなさってくださいまし」


『お』をつければ、何でもごまかせると思うんじゃねぇよ。

 俺は偽りの便意を抱え込み、トイレへ駈け込んでいった。

 そして、すぐさま個室へ入室。

 どうだ? これで、恐らくだが……


あきら、本日の作戦は中止いたしますわよ。わたくしは、誠也あきなり様と昼食を取りますわ』

『本当ですか? よかったぁ。これで、見られずに済む……。』


 よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!! そうだよな! そうなるよな!

 いじめは、要するに俺とかかわるためのきっかけだ。

 だからこそ、それが別方向から提供されれば、アキちゃんが月華げっかをいじめる必要はない。

 さぁ、アキちゃん。月華げっかの作戦はなくなったわけだし、今の時間を利用してブリーフを取り戻すんだ。

 そうすれば、君のはみ出ている部分を収めることができる。


『あの、月華げっか様。それでしたら、下着を……』

『このままで結構ですわ。履き心地がよくて、気に入ってしまいましたの』


 俺、こんなド変態と昼飯食わなきゃいけないの?

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