第5話 間接キス、ですよね?

 3回目のタイムリープ、今度は俺が答えても大人しく席に座っていた。


 さっきの俺の無言がこたえたのだろうな……


 何様だと思われるかもしれないがもう少し牧本の相手をしてあげれば良かったかな。


 ちなみにこれだけ1日で雫と関わっているが、結局今日と話したのは、


「今日も変な髪型ですね」


 だけだったりする。


 普通のクラスメイトでももうちょい話すだろ。


 とりあえず授業も終わったし帰るか。

 それにしても6月というのに既にかなり暑い、春はどこに行ってしまったのか。


 家に帰るまでは歩いて40分とかなり距離があり、自転車通学可なので自転車を使って行くことがほとんどだが毎週金曜は走って行くことにしていた。


 この暑い中でだ。

 身体を鍛える目的もあったが、それ以外にも理由があった。


 そこには制服姿の牧本、いや……


「とーまくん!」


「……どうしてここにいるんだ?」


「と、どうしてってこの神社は私の実家ですよ?そんなとーまくんはなんでここにいるのですか?」


「階段をトレーニング代わりにつかわせて貰ってる感じだけどダメだったらやめる」


「使っていいです!ボロいだけの取り柄のない階段、それくらいにしか使えませんから!」


 ……はい。

 ここまでがいつものテンプレ会話だ。


 金曜の夕方、偶然を装って雫はいつもこの凛城神社への長い階段の頂上で待ってくれていた。


 本当に来るまで待っているらしく、忘れてしまった時は3時間待っていたこともあったのでそれからは毎週来るようにしている。


「折角だし少し休んでいったらどうでしょうか?」


「なら、そうするか」


「待っててください、飲みものとなんか食べ物持って来ますので!」


 スキップして喜んで、雫は実にわかりやすい。

 嬉しいことがあるとすぐ笑うし、恥ずかしいことがあれば顔を真っ赤にしてタイムリープする。


 学園ではあまり喜怒哀楽の感情を出さないで皆に平等に優しく接しているせいか、喜んだり恥ずかしがったりする姿は新鮮だ。


 急な名前呼びも最初は慣れなかったが、今は驚くこと(フリはする)も無くなった。

 女の子に名前で呼ばれて嬉しいに決まっているしわざわざ訂正なんてする奴なんていない。


「お待たせしました!」


 そしてトレーに乗せて出してきたのは、串に刺した猫型のアイスクリーム。

 前は猫の型に盛られたかき氷、その前は猫型の大判焼き(諸説あり)だった。

 かなりの猫好きらしい。


「可愛いですよね?」


 チョコレートアイスを持ち、それを俺の目の前に持ってくる。

 可愛い、というのは目の前の雫のことなのかそれともアイスのことなのか。


「はい、あーん、です」


 これを食べろと?

 タイムリープできるからってやりたい放題だな。


「いや、それはちょっと……」


「あれ?恥ずかしいんですか?」


「そちらこそ、顔が真っ赤になっているようですが?」


 雫も目を逸らしながら俺の口に入れようとしている。


「それは恥ずかしいですけど、あの、そ、それ以上にこういうことがしたかったので……」


「そ、そうか……」


 いやいやそれ以上に恥ずかしいことしてるだろ!?とは言えず。


 そう言われては断れる男はいないだろう。

 思い切り猫チョコアイスを頬張る。


「……うん、うまい」


「神社の敷地にお店で出していて、初詣の時期は1日何千本も売れる人気商品なんです、これは私がそれを真似して作ったものですけど」


 これも手作りか、やっぱり料理に関しても天才か。


「有名だよな、いつもここに初詣来てたし、ここ何年かは人増えすぎて来れてないけど……」


「そうなんですね、なら大晦日は神社に泊まります?部屋ならいっぱいありますから」


「泊まれる訳ないだろ……」


 笑いながら男の同級生を泊める事を何の危機感も無く自慢げに話す。


 と、俺が完食した後の皿をじっと見ている。


「また持ってくるから待ってて下さい」


「もう十分だけど」


「じ、じゃあ、片付けてくるから待っててください!」


 明らかに様子がおかしい。


 ちょっと気になったので後をついて行くことにした。 


「はっ、よっ、ほっ」

 

 神社の敷地は階段や砂利道が多く、更に池の飛び石を渡る中々の道のり。

 雫でも少しバランスを崩しそうになっている。


 そして飛ぶ度に胸を気にしていた、やっぱり重いんだろうか。

 

 しばらく歩き、階段を上がりトレーを外にある流しに持っていくと周囲に誰もいないことを確認していた。

 何する気だ?


「とーまくんの箸……」


 周囲に誰もいないことを確認するとそれをスカートの中に……


 雫さん、それはちょっとまずいんじゃないかな。

 いや、俺はいいんだよ?でも女の子としてそれはどうなんだ?

 もしかして、俺が知らないだけで割と普通なのか?

 というか、とーまくんの箸って響きが変な妄想してしまうからやめて。


「だ、だれっ!?」


 少し動いたことで足元砂利が音を立ててタイミング悪く見つかってしまった。


「見つかっちゃいましたね……」


「いや、こ、これは違くて」


「足りない所だったんです、とーまくんも……丁度良いですね」




◇ ◇ ◇




「…………」


 目の前には200段以上の長く急な階段。


「これをまた登るのか……」


 少し心が折れかける。


 登る前なので当然身体の疲れは全く無いのだが、男ならわかるだろう一通り終わった後の眠気がやばい。

 

 まぁ、可愛い姿を見れたしチャラとしておくか……

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