悪魔くんのお気に入り2【完】

ぺるも

無幕

第1話

 ――――俺には、人には視えないものが見える。



 その事に気が付いたのは、物心が付いたか付かないか…まだ幼い三歳の頃だった。




「ママ…あいつ、ぼくのことをずっと見てるよ」



 怖いよ…と、震えて母の背に隠れるが、見上げた先にある母の顔はなんとも言えない…そう、言葉で表すとするならば『困惑』している、だろうか。



 俺の指差す方向を見て、俺を見下ろして…再びあいつの方を見て…またなの? と返す。



 恐ろしい事に、母にも……父にもこの生物の姿は見えていないらしく、俺が怯える度にため息をつく。



 子供の頃は霊感も強くて霊の姿が見えたりするって言われてるし、そのたぐいの物よね? と二人はそう納得して、俺が成長すればきっと視えなくなるから大丈夫だろうと。



 否、見えるだけならいい。厄介やっかいなのが何故かこの見たこともない異形の奴らは俺にちょっかいをかけてくるのだ。いつの日かは、足を引っかけ転ばされた所に覆い被さってきて、激しく口腔こうくうを漁られたり。


 またある日には、空から飛んできた、羽が6本もある見たこともない鳥のような生き物に肩を捕まれてそのまま空にさらわれそうになった事もある。



 俺が五歳になった頃――怪我をどんどん増やしてくる俺に、さすがに不安に思った両親は、霊の類いの事なら一番信用できるという、この辺りで一番有名だという神社へ俺を連れて行った。



 神社の宮司ぐうじを勤めているという、全身を真っ白の袴姿はかますがたで身を包んでいる、当時の俺には見たこともないような神々こうごうしい服装をしていた楠木龍蔵くすのきりゅうぞうさんは、俺の姿を見るなり「なるほど…」と言葉を落とした。



「お母様、お父様も……あまり驚かないで欲しいのですが、この世界には『悪魔』と呼ばれる生物がいるんです」



 『悪魔』という言葉を聞いた瞬間、二人の肩が面白いくらいにビクリと震えるのが見えた。どうやらその生物は好ましくない物のようだ。



「しかし、悪魔という名がついてますが、その多くは……そう問題もなく、他の動物達のように、こちらが何もしなければ特に何もされませんし、ましてや姿が見える事もないのです」



 その後の宮司の話では、何故かたまに俺のように悪魔のかてにされてしまうような『魂力こんりき』という物を多く持った人間がいるようだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る