第2話
後の親友とも言える仲になる美来とは、中学二年生の時に初めて出会った。その時も今と同じく唐突にそう告げられた言葉が衝撃過ぎて、今でも鮮明に覚えている。
あれは中学二年の秋、ちょうど文化祭という一大イベントも終わり、クリスマスへの話題が盛り上がってきていた頃だった。
その時のクラスメイトの友達の女の子と、クラスの男子の話やクリスマスの予定などの、よくある女子トークを交えつつ移動教室をしていた時のこと。
廊下の向かい側から、視界の端に前髪パッツンの緩めに下ろしたツインテールの女の子が一人で歩いてくるのが見えた。すらっと背も高く、顔のパーツも全て整っていて儚く綺麗な印象だ。
彼女は確か隣のクラスの長門美来という子だったか……と会話をしつつもぼんやりとその名前を思い出していた。クラスも一緒になったこともないのに私は彼女の事を一方的に知っていた。
それは、彼女がこの学校ではかなり有名な人物だからである。派手なギャルな訳でもなく、素行がひどく悪いという事でもない。なんてことない一生徒にしか見えない彼女だが、皆気味悪がって近づかないんだそうだ。
それは、彼女の家系が期せずして持ち合わせてしまっているとある能力のせいだった。
――ふ、と。時間が止まったように感じた。ビー玉のように
対する彼女も、ずーっと私の奥の何かを見据えるかのように視線を
やがてゼロ距離になると、どちらともなく歩みを止めた。隣を歩いていた友達も、急に立ち止まった私を不思議そうに振り返り、私の向かいにいる女の子を視認すると慌てて一人先に行ってしまった。
「あなた……大丈夫?」
「え、何が」
開口一番にそんな事を言われて、キョトンと首を傾げるのにはそう時間がかからなかった。大丈夫じゃないのはそちらの方ではないのか? 具合が悪いようにも見える青白い顔で、こちらの様子を心配そうに伺う長門さん。
「――……良くない相が出てる」
「……えっ!?」
唐突に言われたセリフに背筋が凍りついたのは言うまでもない。
噂では彼女の一家の人は皆、霊感的なものを持っているらしい。特にこの目の前の彼女、長門美来さんは、人のオーラというか人相というか……それを読み取る力が強く、彼女から相について告げられた事は全て当たってしまうらしい。
ある時はクラスメイトの一人に「親とのコミュニケーションを沢山取らないと大変なことになる」と告げたその三週間後に、その子の両親が離婚してしまった。
担任の教師には「右腕に気をつけて」と告げたその二週間後に、自転車で軽い段差を越えるのを失敗して転んでしまい、地面に右手をついて回避した所、複雑骨折をしてしまったらしい。
たまたま、偶然彼女の発言の後に関連付いたような出来事があったのだと言えないこともないが、これだけに留まらず、多くの噂を耳にする。
そんな数々のエピソードを持つ彼女から何かを告げられると、その通りに悪いことが起こるという事で、自分に降りかかりたくない為に誰も彼女へ近づかないのである。
「良くない相……って、どんな?」
「あなたというよりは、その周りの人かも」
周りの人……? もしかしたら先程まで一緒にいた友達の事だろうか。それとも……。
「あなたの両親、気を付けて」
「どっ……どうすれば、いいの?」
食い入るように彼女の肩に掴みかかり、動揺する胸を押さえながら尋ねる。彼女は驚いたように目を丸くさせて私を見つめる。
「は、じめてだ……」
「え、何が初めてなの?」
「――ちゃんと、話を聞いてくれる人」
今度は私の方が目を丸くさせる番だった。そう言えば、いつも彼女の周りには誰もいなかった。誰しも近づきたがらないし、仲良くなりたいという人も居なかったのであろうか。
そんな、どの女の子も普通に取るであろうリアクションを目の当たりして、
「ご、ごめん突然飛び付いちゃって。私、隣のクラスの尾関晴乃です」
「――長門、美来です」
少し恥ずかしそうにそう返したその姿がとても印象的で、なんだ……霊感云々言われてるけど、彼女も普通の女の子じゃないかと。
当たり前なのに、勝手に作りあげられた人格像が彼女への壁を厚くさせていただけなんだ。
よくよく話をしてみると、好きなテレビ番組や好きな食べ物、趣味など共通する所が多くて、とても話がしやすかったので、仲良くなるまでにそう時間はかからなかった。
一気に距離を詰めるように仲良くなった私達の絆は、大人になった今でも変わらず続いている。
かくして中学時代に初めて告げられた両親への不幸は、彼女のアドバイスによって回避できた。
当時は出張族であった父は、度々会社の予定で県を
彼女から相を告げられてから一週間後、再び父へ出張の話が来たのだと美来へ話をすると、血相を変えた彼女は『あと一週間期間を伸ばした方がいい』と強く
その二日後、父が乗っていく予定だった飛行機が整備不良により墜落事故をしたというニュースがテレビや新聞の一面を飾っていたのを見て、家族一同恐ろしさで震えたのだった。
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