ダンジョン食堂『Hatch-Hachi』~異世界で飯屋やってます~
炭火で焙られた厚切りの肉が、網の上でジュウジュウと煙を上げている。じわじわとにじみ出る油が滴り落ちると、その瞬間だけ炭がパチッと爆ぜる。
ちょっとクセのある肉だが、じっくり火を入れればこの通り、極上の旨味が引き出される。貴重な岩塩を削りながらまんべんなく振って、ひっくり返す。もうひと焼きすれば出来上がりだ。
隣の寸胴からはくつくつと湯気が立っている。じっくりと出汁をとったスープが黄金色に透き通り、一口大に切った野菜が柔らかく煮えていた。
デザートのプリンもほどよく冷えたことだろう。そういえば、去年から作った自家製の果実酒も、そろそろ飲み頃のはずだ――。
「さてと……」
一通り料理を作り終え、ハチヤは看板に灯りをともした。薄暗いダンジョンの中、この食堂の灯りはちょっとした道しるべのようなものだ。
ダンジョン食堂『
* * *
木の扉が開き、カラン、と小さな鈴の音が響いた。
そっと店内を見渡しながら入ってきたのは、一人の青年だった。浅黒い肌に、鋭い目つき、鍛え抜かれた腕。いかにも戦士らしい風貌だが、身に着けている装備は魔法職のものだ。ハチヤは静かに声をかけた。
「いらっしゃい」
「あの……何か、すっげー旨そうな匂いがして……」
カウンターだけの小さな店だ。青年は軽く会釈し、吸い寄せられるように隅の席に座った。どこか沈んだ雰囲気をまとい、暗い表情をしている。
ハチヤは手早く茶をいれ、おしぼりと一緒に青年の前に置いた。
「光ってる……」
軽く手を拭いた青年が、湯呑を覗きこんで驚いたように呟いた。
「
「ルミナス、ブロッサム……?」
幻想の森で摘んだ花を乾燥させて作った花茶。湯を注ぐとほのかに発光するのが特徴だ。魔力を回復し、心を落ち着かせてくれる。ほんのり甘くて、ほんのり爽やかな、淡いパープル。
「美味いっすね、初めての味だ……」
青年は一口ずずっと茶をすすり、ほうっと息を吐いた。
「ローフとライス、どっちにする?」
ハチヤは石壁を指さしながら青年に尋ねた。石壁には、大きな文字の品書き。
――――――――
【本日の品書き】
◆火竜の肉の炭火ステーキ~地底のマッシュポテトを添えて~
◆ゴールデンブロス~ゴブリンの骨出汁ごろごろ野菜スープ~
◆ローフorライス
◆とろとろスライムプリン~吸血花の蜜かけ~
――――――――
「じゃあ……ローフを」
「あいよ」
料理はもうできている。ハチヤは次々と出来立ての皿を青年の前に並べた。
「熱いうちに、どうぞ」
火竜の肉が体力を回復し、地底ポテトで疲労が取れるはずだ。
青年はすぐにステーキにナイフを入れた。焼き目のついた肉の断面から脂がじんわりとにじむ。口に入れた瞬間、青年は天井を仰いだ。
「……うめぇ」
次いでスープに手を伸ばす。ゆっくりと口をつけ、嚥下。肩の力がわずかに抜けたように見えた。ゴブリンの骨出汁は万能だ。頭をすっきりさせてくれる。
しばらく黙々と食べ進めていた青年は、やがてスプーンを置き、ふっと小さく笑った。
「……なんか、旨いもん食ってると、どうでもよくなるっすね」
ハチヤはカウンターの向こうで黙々と作業を続けながら、無言のまま青年に視線を向けた。青年は今度はフォークでマッシュポテトをすくっている。
「はは、パーティの仲間割れっすよ」
「俺ヒーラーなんすけど、回復が遅いせいで危なかったって、責められて……まぁ、確かにそうなんすけど」
「あいつら、とにかく突っ込むタイプで……無理に追いかけるとこっちがやられるし。でも遅れたら文句言われるし」
青年はふと真顔になり、ぽつりとこぼした。
「もう、俺抜けたほうがいいのかなって……」
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