きっと いい いちにち

 窓の外から柔らかな日差しが差し込んでくる。


 布団の中から顔だけをひょっこりと出して身体を起こすと、ぼさぼさの真っ黒い髪の毛が窓に映る。

 こんな姿でいたら、ルーちゃんに「女の子なんだからちゃんとしないと!」って怒られちゃう。


 外は今日もいい天気。黄緑色の空、紫色の木々。遠くではピンク色の太陽がキラキラと輝いている。

 空を見上げればネコが飛んでいて、道路を見ればサカナがエビを散歩させている。


 ちなみに今日の綿雲はオレンジ色。たぶん、みかんの味がする。


 さて。今日はなにをしようかな。

 引きこもるか、引きこもるか。はたまた、引きこもるか。

 それともやっぱり引きこもる?


 綿雲の味は気になるけれど、フォービ山の途中にはおっきな蜘蛛の巣がある。

 絡まっちゃったら動けなくなるし。やっぱり引きこもるのが一番かもしれない。蜘蛛、怖いし。


 その点、部屋の中は安全。布団は暖かくてふわふわだし、お菓子は美味しいし。電球は真っ黒な光で部屋を照らしてくれている。


 今日も引きこもろう、と。そう考えようとしたとき、外から大きな声が聞こえてくる。


「おーい、ミナ! 今日も引きこもってるのかー?」


 窓から外を覗いてみると、短い茶髪の元気そうな男の子が大きく手を振りながら話しかけてきており、その隣ではピンクの髪を可愛らしくまとめた女の子がぴょんぴょんと飛び跳ねながらにこちらを呼んでいた。


「ミーちゃん、あのね! 今日はエースくんと、ついでにこのバカジャックと一緒にピクニックをしようって話をしててね!」


「おいルーシャ、誰がバカだ。お前のほうがバカだろ、このバカルーシャ!」


「はあ!? バカって言ったほうがバカなんだから!」


「先に言い出したのはお前だろ、バカルーシャ!」


 どうやら、ルーちゃんとジャックくんが喧嘩を始めたらしい。

 いつものことだけれども、ふたりは仲がいい。


「……せっかくだけど、私はいいかな。蜘蛛怖いし」


「蜘蛛? 大丈夫大丈夫! 蜘蛛だろーが蛇だろーが、なにが出てきても俺のこのバットでボコボコにして退治してやるから! この間だってでっかい狼が出てきたときになんとかしただろ!」


「全く、ジャックったら相変わらずなんだから。でも安心して。野蛮なジャックなんかに頼らなくたって、ミーちゃんなら私のこのラディさんが守ってくれるし!」


「あん? ラディさんって、それ、ただのダイコンのぬいぐるみじゃねえか」


「はあ!? ただのダイコンのぬいぐるみじゃないんだけど! これはラディさんなんだから!」


 ルーちゃんがずいっとラディさん――もといダイコンのぬいぐるみをこちらに向けてくる。

 なんとも言えない顔がついているそのぬいぐるみは、ルーちゃんのお気に入りらしい。かわいい、と言って抱き着いている。


「ともかく、待ってるから早く出てこいよ!」


 ジャックくんがそう言ってくる。どうやら彼らは、引きこもるという選択肢を許してはくれないらしかった。


 仕方なく私はもぞもぞと布団から抜け出すと、まだ眠たい足を引きずりながら、クローゼットを開ける。

 お気に入りの緑色のスカート。白のシャツに桜色のカーディガンを合わせつつ身支度を整える。


「……あ、カバン」


 棚に引っ掛けてあるうすだいだい色のポシェットを取って、中身を確認。

 お菓子とジュース、ハンカチにティッシュ。おサイフとナイフ、バンソーコー。どこかの鍵と、それからエースくんに借りてた本。


 うん、これでたぶん大丈夫。


 部屋の出口に手をかけて。ガチャリ、とドアを開く。


「……いってきます」


 誰もいない、がらんどうの部屋に向けて、私はそう言う。


 おそとはちょっと怖いけど、ルーちゃんとジャックくん。それに、エースくんがいるから。


 きっと、いい、いちにちになる。

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