第3話 クラス発表

「あ、薫君!私たち2組だ!一緒!!」

「ん?ああ」



玄関前に出ている大きな掲示板に貼られたクラス表示を興奮気味に指差す私。欠伸を噛み殺して目に涙を浮かべる薫君は、実にどうでもよさそうに頷いた。



……なんでそんなに余裕な感じなの。



学校に近づくにつれて増えていく新入生がすでに2、3人で楽しそうに歩いている様子を見て動揺を隠せなかった私。


さらに校門を通過してからは、周囲の活気に完全に縮こまっていたけど、クラスを見て少し安心した。



「……良かったぁ」



ポツリと呟いて息を吐いた私を薫君がチラリと見たことには気がつかなかった。



「あっ、薫じゃん!!」



えっ。



驚いたような声に私たちが振り返ると、去年同じクラスだった佐原さんがこちらを指差して立っていた。



すごく短いスカートと緩められたネクタイだけ見ても同じ1年生とは思えない。ぐりぐりに巻かれた髪を揺らして走り寄ってきた彼女は薫君に笑いかけてから、「あれ」と私に目を移した。



「姫後さんじゃーん。頭良さそうだったから、名門私立とか行ったのかと思ってた。ま、ここもそんな悪くないけどー」

「あ、う、うん、久しぶりだね。佐原さんは、」

「ねぇ、薫さぁ。進路とか全然教えてくれないし1週間前のクラス会も来なかったからマジびっくりしたわ」



突然話を振られて慌てて頷いた時には、もうすでに佐原さんの中では会話は終了していたらしく、彼女の興味は薫君だけに注がれていた。


あれ、というかクラス会あったんだ。



「あっ、そういえばさぁ」



相槌すら打たない薫君を相手に、佐原さんがすごい勢いで喋り始める。頷きもしてくれない人相手に話すなんて、私なら心が折れる。



それにしても、この居心地の悪さ。



共通の知り合いではない人が登場して自分と一緒にいた人に話し掛け始めた時の居心地の悪さは尋常じゃない。しかし、佐原さんは一応共通の知り合いであるはずなのに、全く私に見向きもしない。



これ1番辛いパターンだ!

慣れてるけど。



周囲を見渡しても、笑ったり残念そうな表情を浮かべながら友達同士でクラス表示を見ている人たちばかり。


どうしよう、と新品のローファーの傷一つ無い爪先を見つめていれば、いっそうなんだか切ない気持ちになってくる。



ふわ。



風に乗って微かに嗅ぎ覚えのある香りがした。



あ、これ。



薫君を横目で見上げれば、遠くの山に視線を送りながら佐原さんの話を(たぶん)聞いている。



ちょっと失礼しよう。



こうやって逃げるところが私の悪いところだ。でも、だって、もう辛い。クラス会って何。聞いてないよ。薫君も教えてくれたっていいじゃん。ああ、駄目だ、心機一転なんて全然できてない。



そっと2人から離れ、人の間を通り抜けて校舎裏へと足を速める。校舎裏の大きなコブシの木を目指して。






「お前誰だっけ」

「はっ?」



私が立ち去った後、2人がこんな会話を繰り広げていたことなんて知るよしもなく。


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