摩訶不思議な世界の、至って一般的な食事

奈落の味噌煮込み

第1話 混沌の塩漬け

「はい!こんにちは![逾樔ク也阜]イチのグルメリポーター、デメテです!

今回も、[逾樔ク也阜]の伝統料理や、最近新しく生まれた料理などを紹介していきますよ!」


テレビからそんな明るい声が聞こえてくる。

今流れているのは、[逾樔ク也阜]でも人気のテレビ番組のグルメコーナーだ。色々な料理を紹介しており、なかなかに興味深い。私はそれを暇つぶしにぼんやり眺めることにした。


「まずはコチラ!混沌の塩漬けです。

[逾樔ク也阜]で知らない方はいない!

そんな伝統的な料理で、様々なお店で食べられる他、ご自宅で作る方もいらっしゃるでしょう。今回は、原点に立ち返り、混沌の塩漬けの作り方をご紹介します!」


そう言って、リポーターのデメテは食材の紹介を始めた。


「まず、混沌とは何か!不明瞭な状態、物事が入り交じった状態など。こちらの意味は、人間の定義によるものですね。

ですが、[逾樔ク也阜]ではこれが少し変わってくる、ということは皆様ご存知かと思われます。」


デメテはパッと振り返り、そこにいた野生の混沌を素早く捕まえる。それをカメラに見えるように持ち話を続けた。


「[逾樔ク也阜]では、混沌はこのような姿をしており、逃げ足が早い事で知られていますね。混沌は、基本どこにでも生息しており、地域差はありますがどこでも捕まえることが可能です。混沌自体は、不明瞭で入り交じった不思議な味で、調理法によってかなり味が変化します。今回は塩漬けですね。塩に漬けることで、混沌の臭みが抜け、塩気も入り美味しく食べやすくなります。

説明が長くなってしまいましたね!ここからは塩漬けにする工程を見ていきましょう!」


そう言うと、キッチン仕様のスタジオにテレポートし、元気よく動く混沌をまな板の上に叩きつけた。


「まずはこうして叩きつけ、その隙に揉むようにして、混沌を混ぜます。混沌の意識が薄れて大人しくしている間に、塩をまぶしてさらに揉みます。すると混沌が完全に動かなくなるので、大量の塩と容器を用意して漬け込みます。」


説明しながら実践するデメテの前に塩の入った容器が置かれる。デメテは、その塩の中に混沌を埋めながら説明を続ける。


「漬かるのにかなり時間がかかるため、お近くの時間加速所、又は時空管理センターに持っていくと良いでしょう!ご自分で加速できる方はそれでも良いですね。

時間を加速し、完全に漬かった混沌を取りだします。この時点の混沌が動くことはもうありませんので、かぶりつくもよし、薄切りにするも良し、お好きな方法でお食べください。」


そう言ってデメテは、漬かった混沌をカメラに見せた。


「今回は、せっかくなのでかぶりついて見ましょう!いただきまーす!」


デメテが大きく口を開けて混沌にかぶりつく。混沌の中からは混沌が溢れだす。


「んー!美味しいですね!良く漬かっていて、ちょうどいい塩気です。この個体はかなり濃厚な味わいでした。混沌の塩漬けを楽しんだところで、次の料理に─────」


私はそこでテレビを消した。レポーターが美味しそうに頬張っているのを見て、私も混沌の塩漬けを食べたくなってしまったのだ。

少し外に足を伸ばし、混沌を捕まえる。

テレビで見た通りに漬け、時間を加速させる。容器の蓋を開けて見ると、いい感じに漬かっていたので薄切りにする。

食べてみると、昔母上が作ってくれたものに似た、懐かしい味がした。混沌は個体によって味がかなり変わるので、似た味がするのは珍しいことだ。

暇つぶしで見始めたテレビがきっかけで、懐かしさと幸せを味わえた事に喜びを感じ、私は思わず笑みをこぼすのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る