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 昼休み。


 売店で玉子サンドを買い、教室に戻る途中で見慣れない二人組を見かけた。


 一人はスーツ姿の男性で、ネクタイを締めワックスで髪をまとめている。遠目から見てもできる大人の雰囲気を醸し出しており、一部の女子は慈しみを含んだ眼差しで見ていた。


 もう一人は同じスーツ姿の女性だが、ネクタイは緩み、ワイシャツは第二ボタンまで開いていた。そのおかげと言っていいのか、隙間から覗く彼女の豊満な谷間が、男子たちの視線を集めていた。


 そんな二人は複数の生徒に話を聞いているようだった。


「警察かな?」

「でも、取り調べは午前中で終わったぜ」


 一緒に歩いていた友人が言う。ぼくたちは見慣れない二人を横目に通り過ぎる。


 教室に入る直前、女性が顔を上げた。ぼくと目が合った、というよりぼくの存在を察知したかのように。ぼくはドキッとしながらも(そうでなくとも、あんな女性に見つめられたら誰だってドキッとする)教室に入った。


 もう一つ。

 二人の近くを通り過ぎるとき、会話の内容が耳に入ってきた。


 聞こえたのは女性の一言だけ。




「この世界に異変とかなかったかしらン?」




   ***




 二人は放課後になっても聞き込みを行なっていた。


「ねえ、ボク。ちょっといいかしらン?」


 女性が校門前で帰ろうとしていたぼくを呼び止めた。太陽は半分以上地平線の向こうに沈み、ぼくたちの影を目一杯伸ばしていた。


「いい、ですけど……」ぼくは渋々答えた。

「あら、ありがト♡」


 女性の方はそう言うとぼくに近づいた。あらわになった谷間が至近距離まで迫る。いい香りがする。鼓動が早くなる。


「おい、やめろ」


 男性が女性の肩を掴んで引き戻した。


「すまないな、人との距離感がバグってるんだ」

「なによ、その言い方。まるでアタシが捜査の足を引っ張ってるみたいじゃない!」

「その通りだが」


 女性は丸焼きにされた豚のような顔をした。捜査ということは、やっぱり彼らは警察なのだろうか。


「それで、最近なにか変わったことはなかったか?」気を取り直して男性が尋ねてくる。

「変わったこと、ですか?」


 ぼくは腕を組んで考えた。


「それこそ、今朝の銃撃事件とか——」

「あぁ、それ以外で。なんでもいい。ここ数日、とか」


 もう一度、考える。そういえば……。


「一昨日、知らない男の人に話しかけられたことがあります」


 男性の雰囲気が変わった。主観ではあるが、柔和なミルクからピリリと辛い強炭酸になったような変化だった。


「どんなことを話したんだ?」

「駅までの道を尋ねられたので、教えてあげました」


「それ以外には?」

「特になにも」


「以前にも同じように誰か知らない人に道を尋ねられたことはあるか?」

「な、ないです……」


 男性と女性は顔を見合わせた。


「それって、こんな顔じゃなかったかしらン?」


 女性がスマホを見せてくる。スマホには一人の男のスケッチが描かれていた。坊主頭で、釣り上がった目が特徴的だった。


「そうです。この人です」


 そういうと、二人は再び顔を見合わせた。 

 あれ? でも待って。この人、他にもどこかで見たことが…………。




「彼はという存在だ」




 男性が口を開く。


「バリカー?」

「そうだ、奴らは物語の中に入って、破壊する。俺たちはそういう奴らを捕まえるために来たんだ」


 そう言って彼は右手を差し出してきた。


「自己紹介がまだだったな。俺はカツキ、あいつはチェン。俺たちはその……バリカーを追う『物語警察』だ」


 バリカー? 物語警察?

 ぼくの頭は真っ白になった。


 そんなぼくを見たカツキは怪訝な表情を浮かべると、一歩後ろにいるチェンに囁いた。囁いたが、ぼくには聞こえた。


「おい、混乱してるじゃないか」

「それはあなたの説明が下手だからヨン。相手は男子高校生。胸を揺らしてあげれば一発だわッ」


「それは胸のある奴が言えることだろう!」

「は〜あ、これだから最近の草食系は人の心のなんたるかをわかってないわン。アタシに任せてチョウダイ!」


 チェンはぼくのところまで来ると、中腰になって目線をぼくと合わせた。またワイシャツから覗く谷間が近い。


「ごめんなさいね〜。あの人、頭が固いからすぐに専門用語だけで話してしまうの。でも、安心して。アタシがわかりやすく説明してあ・げ・る」


 そう言って彼女は空中に手をかざした。すると、手元にタブレットが現れる。まるでテレポートしたかのように。タブレットを手に取ったチェンはペイントツールに絵を描きながら説明してくれた。

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