第19話 町田抗争 4
アタリと大樹は無人になった道路の上を拳銃片手に駆け巡っていた。
先ほど、町田駅付近に潜んでいる鬼沢班員の位置が仲間によって共有された。それを受けて現地にいる士師や構成員は彼らの後を追い始め、二人もまた戦闘が行われている地区への加勢に向かっていた。情報によると、七星班の士師と鬼沢班の能力者が戦闘を繰り広げているものの、こちらが多少劣勢となっており、一刻も早く現場に駆けつけてもらいたいとのことだった。
その地区に近づくにつれて遠くのほうから銃声が聞こえるようになり、二人は現場に
「アタリ!」
事態に気づいた大樹がアタリの体を掴もうとしたが既に手遅れであり、大樹はその場で一人残されてしまった。すると彼は、不意に白いバンのような車両がこちらに近づいてくるのを見て、路上に棄てられた車の後ろに身を投げた。それと同時にバンの中から細長い銃口のようなものが現れ、車に向かって連続射撃を始めた。マシンガンなんてどこから持ってきたんだよ、大樹は思った。これじゃまるで戦車じゃないか。
銃撃はしばらく続いた後にぴたりと止み、大樹は頭を覗かせてバンのほうを見た。そして彼は思わず声を上げ、直ちに車から離れた。
彼が見たものはロケットランチャーだった。おそらく敵の能力なのだろう、先ほどまでマシンガンだったはずの物体は一瞬にして重火器に姿を変えられており、その発射口が車に向けられていたのだ。
大樹が走り出して数秒もしないうちに弾は発射され、車は大爆発した。大樹は背中から来る熱波に投げ飛ばされるもすぐさま立ち上がり、近くの裏路地へと入り込んだ。
───
アタリは
アタリのいるフロアは百均コーナーのようだった。電気は点いているものの客の姿はなく、そこにはただ一人の金髪の男性だけが立っていた。
こいつか。
アタリはポケットから拳銃を取り出すと銃口を金髪に向けた。そして引き金に指をかけたその瞬間、金髪は手を広げてアタリに突き出した。それと同時にアタリの手から拳銃が離れ、そのまま金髪の手の中へと滑り込んでしまった。
金髪は腰からもう一挺拳銃を取り出すと二つの銃口をアタリに向け、弾を使い尽くす勢いでアタリに銃弾を放った。アタリは背を低くして商品棚の後ろに避難し、携帯していたナイフを取り出して店内を回り始めた。
「君、アタリって子だよね」金髪は弾切れになった銃を捨てると言った。「七星班に暴れ馬が入ったって話題になってたよ。噂通りの動きだね」
アタリは何も答えずに棚から棚を移動し、金髪はそれを目で追った。
「君の能力はなんだったっけ? 時を戻せるとかだったかな? 君の能力と俺の能力、どっちが強いか試してみようよ」
するとアタリは途端に足音を消し、金髪に居場所を悟られないように彼に近づいていった。金髪はただ会計レジの前で仁王立ちし、アタリの出現を堂々と待ち構えていた。
しばらく静けさが店内を包み、そして突然物陰からアタリが姿を現した。その左手には店の中から
ナイフは回転しながら男性のほうへと飛んでいったが、男性が手をかざした途端に回転が止まり、持ち手の部分が彼の手に向けられてそのまま受け止められてしまった。
アタリはすぐさま身を隠し、そしてキッチン用品のコーナーに向かうと再びナイフを手にした。そして不意打ちとして金髪にナイフを投げつけようとしたが、思いがけない光景を目にして彼は思わず固まってしまった。
金髪は既に先ほどいた場所から姿を消しており、アタリが作った割れ窓から身を投げ出していたのだ。それも束の間、金髪は突然アタリのほうへ振り返ると彼に向かって手を伸ばし、先ほどのように彼を引っ張り始めた。アタリの体はビルの中から空中へと投げ飛ばされ、そのまま勢いよく金髪の手の中へと近づいていった。
そして首を
勝ったな、金髪は得意げな表情を浮かべて挑発するようにアタリを見たが、自身の腹部に違和感を覚えると一瞬でその表情を失った。見ると、金髪の腹部には縄のようなものが巻き付けられており、アタリはその両端を握ったまま落下していった。
「この……いつの間に!」
「雑魚に構ってる暇はねぇんだ。先輩が俺を待ってるんでな」
アタリに引っ張られながら地面に向かって落ちていくと、金髪は思わず小声でうめいた。彼が
そんな中、アタリはあるものを目にした。それは高さ五メートルほどの歩行者デッキから落下している煉瓦の姿であり、アタリはそれを目にするなり金髪の手を煉瓦の下に向けて飛んでいった。地面と衝突する直前でアタリは煉瓦をキャッチし、金髪は地面と衝突して煙と化した。
アタリはすぐさま煉瓦を見た。見たところ大きな外傷は見当たらず、むしろ平気なようであった。煉瓦はアタリに目もくれずただ自身が落ちてきた場所を見上げ、アタリもその視線を追った。そこには手すりから乗り出してこちらを見ている渋谷の姿があり、彼は煉瓦が無傷であることを確認するとすぐにその場から離れた。
「あいつ、鬼沢班か?」
「はい」
「なら殺しに行くぞ」
アタリはそう言うと煉瓦を解放して立ち上がり、ナイフを握りしめてデッキに繋がる階段へと向かった。しかし、そんな彼を煉瓦は止めた。
「何だよ? 早くいかねぇと逃げられるだろうが」
「だって、その……彼は非能力者ですよ」
「だから何だってんだよ」
「思うんですけど、今すべきなのは非能力者の始末ではなく、能力者の始末だと思うんです。言ってしまえば、いつでも手を下せるやつに手を焼くよりも、厄介な存在である能力者に集中すべきだと思うんです」
「まぁ、それも一理あるけどよ」
「でしょう。だからここは別の敵を探して、着実に鬼沢班の勢力を弱めていきましょう」
何をしているんだ、煉瓦は自身に問いかけた。渋谷が組織を裏切って人を殺しているのは事実で、能力の有無はこの際関係ないはずだろう。それなのに、どうしてあいつを逃がすんだ。
彼は気づいていなかったが、この時彼はある期待を抱いていた。それは渋谷との平和的解決というものであった。おそらく渋谷は完全に悪に堕ちていない。必死に説得すれば彼を正しい場所へと導けるかもしれない。煉瓦はそれを無意識のうちに考えていた。
しかし、敵と遭遇すると即殺し合いが始まるこの戦場では、その期待も
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