お盆・男:不問=1:1 10~15分劇
主人公(男)・・・・社会人。お盆による久々の休み。
早瀬(不問)・・・死んだ当時の中学生のままの見た目で、やって 来た
場面設定。陽が落ちる直前のアパートの一室
※セリフには基本「 」が付いてます。心情描写は付いてません。
以下本編になります
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早瀬
「おー久しぶりじゃん!!元気にしてた?なんか学生時代も痩せてたけど、今の方が痩せたか?しかも当時と違って不健康に痩せてるな。ちゃんと寝て食ってるか?」
主人公
「・・・あの〜どちら様でしょうか?自分に中学生の知り合いは居ないのですが・・・」
早瀬
「ん?あぁそうか、俺の見た目変わってないのか。俺だよ俺!中学同じクラスだったろ?早瀬だよ」
主人公
「え!?あの早瀬?確かにそんな見た目だった気がする。お前でも中学の時に・・・死んだじゃん」
早瀬
「そうだけどさ、今日はお盆だよ。死んだ人間も生き返って里帰りよ!」
主人公
「お前地元ここじゃないだろ」
早瀬
「まぁー細かい事は気にするな。とりあえずその椅子降りてこっちこい。久々の再会なんだし座ってゆっくり話そうぜ。ほら、そこ座れ」
主人公
「いや、ここ俺の家だから。なんで自分の家みたいに仕切ってるんだよ・・・飲み物いる?そもそも飲む事は可能なの?」
早瀬
「あー試した事ないけど、飲めたら飲みたいかも。何ある?」
主人公
「麦茶でいい?」
早瀬
「いいよ」
主人公
「お前、氷いらない派だったよな?」
早瀬
「その通り。覚えててくれてサンキュー」
主人公
「はい、どうぞ」
早瀬
「ありがと!やっぱ社会人になってお前変わったな」
主人公
「ん?麦茶出しただけで何がわかんだよ」
早瀬
「いやいや、わかるって。昔のお前は飲み物出さないし、出て来たと思ったらグラスに半分くらいしか入ってないしで卑しさ極まれりだったぞ。今見てみろコレ、大きめのコップにギリギリまで麦茶入れてるじゃん。成長したなぁーって感慨深くなっちゃうよ」
主人公
「残念だったな。丁度飲み切りできそうだったからギリギリまで淹れただけだよ。逆にお前は姿どころか中身も変わってないな」
早瀬
「当たり前だろ。だって俺死んでんだから、成長してたらむしろ恐怖だろ」
主人公
「幽霊自身に恐怖言われてもなぁ」
早瀬
「それもそうだな」
主人公
二人で無言で麦茶を飲み干す。白いワイシャツに学生ズボンの早瀬は麦茶を飲み干す。俺も負けじと飲み干す。
早瀬
「問題です。俺は今日天国から来たのですが、交通手段はなんでしょうか?」
主人公
「え、天界からのワープ的な感じではないの?」
早瀬
「そんな便利な物はない!」
主人公
「一般的に考えれば、行きはきゅうりの馬で帰りは茄子の牛だけど・・・どう?」
早瀬
「残念、不正解!現代人が馬や牛に乗れない問題が多発して現在は特別希望がない限り、行きはレンタル自転車、帰りは徒歩です!」
主人公
「え、そんなに夢のない交通手段があの世でも使われてるの?ていうか、自転車もレンタルなんだ・・・」
早瀬
「買うと高いからね。みんなこの時期だけレンタルしてる」
主人公
「世知辛いあの世だな」
早瀬
「いや、むしろ1年に1回しか使わない自転車を買わずにレンタルできるのは、なかなかシステムとして整ってるよ」
主人公
「・・・そうなのか?」
早瀬
「まぁ、こればかりは実際体験してわかる事だから、しょうがない。君にはまだ早いかな」
主人公
「いや、なんか先輩面してるけど、享年そっちが早いだけで俺たち同級生で同い年だからな」
早瀬
「それもそっか」
主人公
「ハハハ・・・」(笑い声)
ひとしきり笑って俺は気になっていたことをようやく切り出す決心がついた。
「なぁ、あの世ってさ、どんな所なの」
早瀬
「そうだなぁー・・・」
主人公
友人の顔が開け放った窓から差し込む夕日で真っ赤に照らされていた。やたらと蝉の鳴き声がうるさく感じる。
早瀬
「あまり、いいところではないかな・・・」
主人公
「・・・そっか」
早瀬
「天国をわかりやすく言うのであれば、第二の現実なんだよ。こことあまり変わらない。過労死が問題になって働き方改革とか、環境汚染も騒がれてたな。もちろんブラック企業もあればイジメもある。この前なんか転生を管理する転生事務局の残業時間が問題になって、労基が介入してたな。異世界に飛ばすのはトラックに轢かれた高校生に限定するとかなんとか。だからお前が今トラックにあたりに行っても死ぬだけだ」
主人公
「大変そうだな。・・・でも、あの世にはお前が居るんだろ。それだけでも、楽しそうだよ」
早瀬
「俺には勿体無いお言葉だな」
主人公
「俺はあの頃と変わらず臆病者で、今もお前の顔を直視できないでいる。ただの疲れたサラリーマンだよ」
早瀬
「そうかもな・・・でも、お前は生きてる。まだまだ地に足ついてる。あの世なんてロクでもないところに早々に来る必要はない。帰ってくるのに毎回自転車レンタルしなきゃだし。帰りは帰りで歩きだし。しかもレンタル自転車だから、ただ歩くのではなく自転車返すために引いて帰らなきゃだし・・・だから首を長くするまで待たせてくれよ」
主人公
外は既に薄暗くなり、蝉の声も聞こえない。タイムリミットはなんとなく察している。子供の頃、そろそろ帰る時間だとわかるように。
早瀬
「よし、じゃあ時間だな。俺は帰るよ」
主人公
「おう」
早瀬
「そうだ、忘れるところだった。久しぶりにお前に会えたから楽しくて伝え忘れてた。そもそもコレが目的だったのに」
主人公
「なんだ?」
早瀬
「俺はさ、誰も恨んでなんかいないよ。あれは・・・ただの事故だ。気にするな、だから前に進んでくれて大丈夫だから。」
主人公
「・・・」
声が出ないのではなく、なんと言っていいかわからなかった。様々な感情が濁流のように溢れる。
早瀬
「じゃあ、今度こそお別れだ。自転車の返却時間も危ないから帰るな。なぁ最後くらい顔見せろよ」
主人公
「それもそうだな。なぁ次いつ会える?」
早瀬
「わからない。けど、そのうち会えるよ。まぁ60から70年後くらいに」
主人公
「わかった。楽しみにしてる。じゃあ、またね」
早瀬
「おう、またな!」
主人公
俺は玄関の鍵を閉めてリビングに戻る。もう一度椅子に登りさっき結んだ縄を解く。麦茶を追加で注ぎ飲み干す。ぼんやりと自分の身代わりかの如く虐めにあい、川に身投げをしたと思っていた友人を思い出す。ただ、それは事故だそうだ。手放しでその話を信じるわけではないが、もらった命だ。くれた本人の意思を優先していいだろう。冷蔵庫の野菜室から胡瓜と茄子をだして割り箸で足を作る。本人は自転車と言ってたが、さすがに胡瓜と茄子では作れなかった。外から自転車のベルの音と子供がはしゃぐ声が聞こえる。俺は陽の落ちた外に向けて「さよなら」と送り、窓をゆっくり閉めた。
「終」
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