第22話 楽しく賑やかな婚姻生活


「どれもだめね。雛雀は具現化できたのに。何か法則でもあるのかしら?」


 私は意気消沈して筆を置き、小龍もがっかりした顔をする。

 すると、雛雀が人間っぽく腕を組むような素振りをして考察した。


「主様の力は戻ったばかりで、まだ安定していないのでしょう。あと、絵に対する思い入れや描いている時の心境が力に影響するのだと思われます。大きくて強力な生き物ほど具現化が難しく、相当な画力や霊力も必要になるようです。絵の完成度も重要ですよ」

「あら、あなた物知りなのね」


 賢い鳥を想像して、願いを込めたからだろうか。


「当然です。僕は朱雀の化身。高い知性を備えた神獣ですから。そこの蛇とは出来が違います」


 ――え? この子、かわいらしい見た目に反して毒がある……?


「蛇じゃとぉ!? 我は最強の神獣・青龍じゃ~!」


 すまし顔の雛雀に向かって小龍は激昂した。


「何とも頭の悪そうな台詞ですね。見るからにひ弱そうで、青龍の原形も留めてないじゃないですか。とても僕と同じ神獣には見えない」

「貴様とて神獣には見えぬわ~! 我よりひ弱そうなちんちくりんではないか!」

「ち、ちんちくりんですって? よくも僕が気にしていることを! 僕は君より遙かに頭がいい! 高速の飛行能力もある。君の体じゃ、のろのろと飛び回ることしかできないでしょう?」

「これでも素速く動けるのじゃぞ! 多くの仲間が悪女によって消されていく中、我だけがこの俊敏性で生き延びたのじゃ。我は偵察能力にも長けておる。守護龍として長年主人を守り通してきたのじゃ。生まれたてのひよっこが少し飛べるくらいで威張るでないわ!」

「少し生まれるのが早かったからって、何を偉そうに……。このじじくさい蛇がっ!!」

「ぐぬっ、一度ならず二度までも……! もう許さぬ! この鋭き爪で引き裂いてくれる!!」

「そんな軟弱な爪でやられるか! 僕こそこの鉤爪で引っかいてやる!!」

「ふたりともやめなさい!」


 声をあげて制止するが、二匹は取っ組み合って喧嘩をやめようとしない。


「せっかく仲間ができたのに、どうしてそんなに仲が悪いの? 離れなさい! ……きゃっ」


 二匹を引き離そうとしたところで、どちらかの爪が手を傷つけ、私は悲鳴をあげてしまう。


「翠蓮!」


 すぐに煌さんが私の手を取り、心配そうに傷を確かめる。

 右手の中指にうっすらと血が滲んでいた。


 ――あっ! まずいわ。


 嫌な予感がして煌さんの顔を見あげると、目の色が血のように濃い赤へと変わっていた。


「……彼女を傷つけたのはどいつだ?」


 指のひっかき傷を見て、彼が殺気立った低い声音で問う。これは確実に天煌様だ。

 あまりの迫力と鋭い視線に、小龍と雛雀はビクッと大きく体を震わせた。


「僕じゃありませんよ。僕はちゃんと周りを見て行動してます。主様を傷つけたのは蛇です!」

「嘘をつくなっ! 我ではないぞ! この小さき手を見よ。このように丸みを帯びた爪で人を傷つけられるはずがなかろう。翠蓮を引っかいたのは雛の雀じゃ!」


 小龍はオロオロと天煌様に手を見せて弁明し、雛雀を指し示す。


「なっ! さっき『鋭き爪』って言ってたじゃないか! 調子のいい蛇だな!」

「何じゃと~!!」


 二匹は天煌様の存在を忘れ、また取っ組み合いの喧嘩をしようとした。

 だが、カチッと響いた物音を聞いて静止する。天煌様が二匹を睨みながら剣を抜いたのだ。


「申し訳ありませんでした!」


 天煌様が放つ殺気に二匹はぶるぶると震え、互いの体を抱き合いながら謝罪する。

 天煌様はフンと鼻を鳴らして剣を収め、今一度私の手を見てから外に向かって問いかけた。


「誰かいるか!」


 すぐに暎暎が「ただいま!」と声をあげて、戸口に姿を現す。


「医官を呼べ。翠蓮が怪我をした」

「かしこまりました。少々お待ちを~!」


 暎暎が慌てて出ていったため止めることができず、私は天煌様に視線を向けて訴えた。


「医官を呼ぶほどの傷ではありません。舐めておけば治ります」


 天煌様は「そうか」とあっさり言って、私の手を取る。

 そして、唇まで手を持ちあげ、傷口をぺろっと優しく舐めた。


「ひゃっ! 何をされるのですか!?」

「舐めておけば治るのだろう? お前の肌にこれ以上傷を残したくないからな」

「舐めておけば治るというのは喩えです! 軽い傷だから放っておいてもいいという」


 私は甲高い声で主張し、ドキドキと高鳴る胸を押さえる。

 煌さんばかりか天煌様まで過保護すぎるのではないだろうか。心臓に悪いからやめてほしい。


「……何か、さっきと全然性格が違うようですが」

「奴はな、血を見ると性格が変わるのじゃ。二重人格というやつじゃな」

「な、なるほど。急に気障ったらしくなりましたね。見ている方が恥ずかしい」

「まったくじゃ。イチャイチャしおって」


 ひそひそささやき合う二匹を天煌様がギロリと睨みつける。

 小龍と雛雀はまたビクッと震えて体を抱き合った。


「また奇妙な生き物が増えたようだな。あの鳥は何だ?」


 天煌様が雛雀を顎で指して尋ねてくる。


「彼は雛雀。小龍と同様、私の描いた絵が具現化したものです」


 私は異能について説明した。

 八年ぶりに具現化できたこと。まだ力が不安定であることも。


「……なるほど。聞いたことがある。六神仙の末裔だけが受け継ぐ力だな。それで、その鳥だけ具現化できたというわけか。成功した理由が気になるところだが、なぜその鳥を描いた?」

「それは、煌さん――煌天様のご希望でして。雛雀は煌天様へのお礼として描いたのです」

「煌天へのお礼だと?」


 天煌様が不愉快そうに顔をしかめる。

 煌さんだけにお礼をしたから面白くないのだろうか。


「天煌様にもお礼がしたいのですが、何がいいでしょう? 絵を描いて贈りましょうか?」

「お礼? あんな生き物をもらっても、うるさくてかなわん。不要だ」

「そうおっしゃらずに。ぜひ何かお礼をさせてください」

「……フン。別にいらんのだがな」


 天煌様は満更でもなさそうに言う。素直な性格ではないのかもしれない。

 少しうれしそうな彼を見て、私は微笑みながら思考を巡らせる。

 何を贈ればいいだろう。不要と言われたけど、絵を描いてもよさそうだ。

 まだ不安定とはいえ、せっかく力が戻ったのだから、彼や国のためにも役立てたい。

 焔に嫁入りして二ヶ月。味方や仲間も増え、これからは更に楽しく賑やかな生活を送れそうだ。



〈第一部完〉




――――――――――――――――――



最後までお読みいただきありがとうございました。

あらすじと近況ノートでお知らせしました通り、WEB小説版は第一部で終了となります。


WEB小説版を改稿し、11万字ほど加筆した書籍版もございますので、興味がありましたらぜひお読みくださいませ。

こちらは第三部、物語のオチまできっちり書いております。


https://www.kadokawa.co.jp/product/322410000822/



また、漫画でも続きをお読みいただくことが可能です。


https://comic-walker.com/detail/KC_005809_S?episodeType=latest



第7話(第二部の始まり)の更新は3月以降になるかと思いますが、こちらも是非よろしくお願いいたします。

第一部までをえがいたコミックス①巻も発売中です。


https://www.kadokawa.co.jp/product/322410000823/



この後に掲載する番外編は第三部の内容となります。

ただ、独立したお話となりますので、第一部しか読んでいなくても入りやすいかと。

天煌と翠蓮がケモキャラたちを連れて遠乗り(デート)に出かけるという内容。

主役二人とケモキャラたちの趣味嗜好が読み取れる楽しいお話になっているかと思いますので、こちらもお読みいただけましたら幸いです。


第三部から登場する、新キャラもいますので軽く紹介しておきますね。


炎獅えんし

翠蓮が具現化させた大きな赤い獅子。

動いている時以外は常に寝ている。傲慢ごうまん怠惰たいだな性格。



それでは、また物語の世界でお会いしましょう。



青月花

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