「おむすび」拒食エピ、終わりなき物語を終わらせる難しさ


「おむすび」第19週。

拒食症の麻利絵をめぐるエピソードの回収については、今ひとつとする声が目立った。

たとえば「こんな簡単に説得で治るもんじゃない」「あんな説得で食べられるようになるほど摂食障害って単純なものじゃないと思う」「あまりに簡単に改心しすぎて草」「あれだけ拗らせてた子が、あんなお話だけであっさり解決するもんじゃないでしょ」などなど。

たしかに、95話の冒頭では、勝手に退院しようとしていた麻利絵。ヒロインの管理栄養士・結に「このまま退院したら一生後悔するよ」と止められても「とっくに後悔している」「太りやすい体になったのはお母さんのせい」などと聞く耳を持つ雰囲気ではなかった。

しかし、この回の前半、テーマ曲の時間を除けば5分ほどで問題は解決。結と麻利絵が「それは違うんやないかな」「何が違うの?」という会話をしてから、結の説得に心を打たれ、麻利絵が素直にうなずくまではほんの3分だった。

その説得が「親は自分の子のことが何より大切」「可愛い服着て可愛いメークして友達と遊びに行ってプリ撮ったり。好きなことやろうよ。そのためにはしっかりご飯食べて必要な栄養量摂って健康になろう。それから好きなことを目一杯楽しもうよ」という内容だったのも、視聴者をモヤっとさせた原因だろう。

麻利絵役の桧山ありすの演技が、91話での登場以来、痩せ姫の拗ね方というか反発、美や承認欲求への執着、などをけっこう上手く表現していたぶん、もったいない気もした。


とはいえ、拒食症を含めた摂食障害はそもそもドラマや映画の題材には向きにくい。

極論するなら「終わりなき物語」みたいなところもあり、長引けば長引くほど、本人はもとより、その周囲にもストレスとフラストレーションが溜まっていく。

そういうものを、ましてや朝ドラで観たいという人は間違いなく少数派だろう。

ただ、半年という長尺のドラマのなかのスパイスとしてなら使える。

「おむすび」は第9週において、それなりの成功をおさめていた。

ヒロインとともに栄養士を目指している沙智がじつは摂食障害だった、というエピソードの挿入だ。

高2のとき、インターハイの陸上1500メートルで優勝し「五輪候補か」と騒がれたほどの選手だったが、45話でこんな過去を告白する。

「私の高校の陸上部のコーチ、めっちゃ厳しい人でさ。特に体重管理にこだわって“100グラムでも、200グラムでもええから体重落とせ”っていっつも言われとった。ただそれが原因で摂食障害になってもて……。食事に関する行動で異常な状態が続く症状。自分でコントロールできんくて食べ過ぎたり、逆に食べたぁても全く食べれんくなったりする。コーチの言うた通り体重を落としたら、インターハイで優勝できたし、驚くほどのタイムも出たし。でも、練習中に倒れて、そのまま病院に運ばれて、検査したら疲労骨折しとって、骨密度もボロボロで、貧血もひどくて、それで入院することになって……。今も病院に通って、血液検査だけ受けとんやけど、ようやく正常な数値に戻ってきたんよ。私な、私みたいな子をひとりでも減らすために、スポーツ栄養士になりたいと思ってん。ホンマは大学に行って、時間かけて目指すべきなんはわかっとう。でも、今この瞬間も、間違った指導法で苦しんどう子たちがようさんいとる。せやから、いちばん早く栄養士の資格をとれるここに来てん」

この描き方が上手かったのは、沙智の回想にしたところだ。

「終わりなき物語」は簡単には終わらないが、終わらせようと努力することはできるし、終わりに向かっているかどうかは本人が判断すればよい。

いろいろ大変だったけど、今はそれを人生の糧にして前向きに頑張っている、という告白は朝ドラの世界観にも合うし、それがヒロインの生き方にも好影響をもたらすことは、視聴者もすんなり理解できただろう。

なお、沙智のエピソードは、麻利絵の説得にも活かされ、その気持ちを変えることにつながった。

しかし、ヒロインと麻利絵とは抱えるものも、拗らせ方も大きく違う。

他者の回復エピソードが必ずしも、本人の回復に好影響をもたらすとは限らないのが、ややこしくて根深いところだし、そのあたりをうすうすわかっているからこそ、視聴者も納得しにくかったのだろう。


それでも、筆者にとって、この週の「おむすび」は充実していた。

麻利絵の物語なら、半年でもそれ以上でも、見続けていたいと思ったほどに。

もちろん、それは桧山ありすの好演によるところも大きい。

同じ「ニコ☆プチ」出身のレジェンド美少女・高田凛のことなども思い出せたりして、幸福な5日間だった。

そのぶん、自分と世間とのギャップに改めて気づかされもするが、こういう視聴と鑑賞ができるのも自分だけかもしれないと悦に入れたりもする、特別な週だったのだ。

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