第2話

 コツコツ、シャーシャーとシャープペンシルを走らせる音が走る。カタ、とシャープペンシルを置く音を一番に鳴らしてサラが教室から出た。それなりに簡単だった、なんて思っているのは彼女だけだろう。サラが教室を出て数十分後に親友のテスが他の生徒と混ざってあくびをしながら出てきた。テッサはロッカー前にいるサラを見て、フラフラと近づいた。


 「また楽勝だとか思ってるんでしよ?ったく、秀才はこれだから…」


 テスはいつも学年1位のサラを見て感心しつつも半ば呆れていた。


 「え、ま、まぁね。テッサだって賢いんだからもっと勉強に時間割けば、私くらい余裕で越せるのに。もったいないよ。」


 「私は勉強より熱中できることがあるからいーの!」


 「だね。私もテッサのラップとダンス大好きだもん。」


 そうさらがいうと、テッサは嬉しそうに笑った。テッサのラップとダンスはかなりの実力なのだが、本人は趣味だから大会は出ないと主張している。お気楽にやるのが良いらしい。


 「そうだ!今週末のさ、Hoppersのライブ一緒に行かない?」


 「え?Hoppers?!」

 

 Hoppersは世界中で男女問わず人気の男性アイドルグループで、ライブチケットの価値は相当である。しかし、サラが驚いたのはテッサがそんなチケットを持っているという事実ではない。今週末のHoppersのライブには実はサラはエレボスとして警護の任務が当たっているのだ。テッサとライブに行けないのはもちろん、鉢合わせなんてしたら大変だ。自分がスパイであることは原則誰にも知られてはならない。それはスパイの初歩的なルールである。テッサがライブに来る…つまり変装の必要が絶対となったわけだ。サラとしてテッサと参加したかった欲を噛み殺した。


 「ごめん!今週は予定あるから。」


 申し訳なさそうに笑うサラにテッサはえー!と落胆の声を漏らした。そんなテスを見てサラはあるアイデアを思いついた。


 「ねぇ、テッサ。それならメイソンを誘ってみれば?」


 メイソンに想いを寄せるテッサはそれを聞いて少し頬を染めた。いつもクールでスワッグなテッサでも彼のこととなると普通の乙女である。


 「サラからジョシュアにメイソンを誘ってって言ってくれる?」


 テッサはサラと同じくらいの身長のはずなのにこのときばかりはテッサのほうが格段低く見えた。


 「もちろん!けどメイソンのwhatsapp持ってるんでしょ?自分で聞けばいいのに…」


 サラがそうこぼすと、恥ずかしいから無理!とさっきよりも紅くなった頬でテッサが叫んだ。サラは楽しそうなテッサを見てつられて笑った。

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