第2話 ロシアの宗教の特殊性

 

第1節

 ロシアの宗教はキリスト教です。ただ、ローマカトリックと違って、東方正教と言います。

 今回のウクライナ戦争で、この戦争をなぜしなければならなかったのか強弁しているプーチン大統領の側に、ロシア宗教界の最高権威である総司教キリルが付き添っていて大統領の弁舌を翼賛しています。その映像を何気なく見過ごしてしまった方も多いかもしれませんが、これを日本に置き換えてみるとその奇妙さが分かります。


 日本は宗教の自由を保障されていますが、神道と仏教が国教といえるのではないでしょうか。

 神道でいえば神棚には必ず天照大御神と地元の御祭神が祭られていますので、祭られている伊勢神宮の大宮司様が、神道のトップといえるでしょう。あるいは、神無月に日本中の八百万の神が集まる春日大社の宮司様が神道のトップでしょうか。仏教でいえば異論はあると思いますが、お釈迦様の御真骨が眠る日泰寺の大僧正様でしょうか。

 例えばですが、日本が他国に侵略されそうになって総理大臣が、止むを得ず防衛戦争を開始すると宣言したときに、それを強烈に支持すると傍についているのが、大宮司様か大僧正様という映像なのです。

 

 皆さんは初詣に行ったでしょうか。受験生になるとたいていの人が、願掛けのため行くのではないでしょうか。神宮や神社へ行く初詣は、世界最大級の宗教行事と言われています。上位20ケ所だけでも、3700万人くらいの人が初詣に行きます。ある年度の統計によると一億人近い人が初詣に行っています。


 江戸時代の人は信心深く、よく神社へお参りに行っていたようですが、現代日本人はどうでしょうか。信心深く年に何度も行く人は少ないと思います。住宅事情により家庭に神棚を置く家も少なくなってきているのではないでしょうか。


 ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の聖地はエルサレムですが、イスラム教の聖地は、3つあり、第一の聖地はメッカ、第二は、メディナ、第三がエルサレムの岩のドームです。

 イスラム教の第一の聖地、メッカ巡礼は、200万人位、ヒンドゥー教のガンジス川沐浴は1800万人位、8週間の期間中ですと1億人以上の人が沐浴して罪を清め輪廻転生の循環からの解脱を願います。


 キリストの生誕を祝うクリスマスは、22億人のキリスト教徒が参加しますが、キリスト教徒ではない日本人には、フェスティバルの一つに過ぎないでしょう。敬虔で信心深いキリスト教徒は、日曜日には教会へ礼拝に行き、夕食時には神に感謝の祈りを捧げます。キリスト教徒の50%近くの人が、旧約聖書に書かれた天地創造をいまだに信じていると書かれている本もあります。


第2節

 日本の神話では、最初に天と地が分かれたときに現れたのは天≪あめの≫御中主≪みなかぬしの≫神≪かみ≫でありましたが、皇室の祖先神で日本国民のおやがみでもあり、天上界の高天原たかまのはらを統べているあまてらす大御神おおみかみが日本の最高神とされています。

 神棚に祭られているのはこのあまてらす大御神おおみかみであります。また地域の神社の神様も祭られています。信心深い人は、毎日、お米、お塩、お水を捧げて拝礼しますが、現在はどのくらいの人が神棚に向かって礼拝しているでしょうか。

 過去には国民の三人に二人は、初詣に行っていた日本人ですが、どれほど神様を信じているでしょうか。

 

 仏壇に向かって祖先の供養をしている人は多いでしょうが、お経に書かれている極楽浄土の様子や阿弥陀仏が苦労して誓願を立て、成就した話や極楽浄土へ行く方法を知っている人は少ないと思います。

 神棚に向かって毎日礼拝をしている人はさらに少ないと思います。極道や商売をしている人は別かもしれませんが、詳しく知りませんので、信心深く神棚に礼拝している日本人は少なくなったと思います。特定の宗教に属する人の割合は変わらないものの、信仰心が薄くなり神仏を拝む頻度は低くなってきているようです。


 イスラム教徒はメッカに向かって一日に5度礼拝をおこないます。ラマダンでは、一月に亘り日の照っている時間帯には断食をして神に敬意を捧げます。

 前書きが長くなってしまいましたが、世界には、神の存在を信じている人がたくさんいるということです。いや、ほとんどの人が神を信じているということです。あなたは神を信じますか。神がこの大宇宙を作ったのなら、神はこの大宇宙にはおらずビッグバンの外側にいると思うのですが、崇めることに異論はありません。

 小中コラム

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 恐竜好きの小中学生の皆さんは、恐竜の時代が、約6600万年前に大量絶滅するまで一億年以上続いたことを知っているでしょう。また、地球が誕生してから46億年経っていると知っている人もいるでしょう。お正月の三ケ日が過ぎたころそろそろ冬休みの宿題が気になってきた1月7日に、クリスマスをしたらどう思うでしょう。日本でしたとしたら、変人扱いでしょう。

 でもお隣のロシアでは,1月7日にキリストの生誕をお祝いしてクリスマスをします。なぜでしょうか。太陽の周りを公転する地球の1年が正確に再現されていないユリウス暦を教会では使っているからです。世界が使っているグレゴリオ暦をロシアが使うようになったのは革命後の1918年からです。

 1917年3月に起きた革命は2月革命、11月に起きた革命は10月革命とロシアではなっていて世界の歴史とは違っています。教会ではキリストの生誕を祝うのにユリウス暦を使っているので現在では13日ほど普通の暦とずれが生じています。旧暦の大安とかも使われているので一概に悪いとは言いませんが。

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第3節

 隣の国とは言え、中心部分はヨーロッパに近いところにあるので、ロシア人の感覚は、日本人とかなり違います。海外メディアに対するラブロフ外相の傍若無人とも見える答弁を見聞きするとその考え方の違いに驚きます。国連におけるロシア代表の答弁もそうです。

 また、以前、在日ロシア大使は、記者から「ウクライナの惨状をどう思いますか」と問われ「あれはフェイクニュースです。ウクライナが流した偽の映像です」と頑強な答弁をしていました。


 『大使とはうそを吐くために送り出された正直な人間』というものの、あったことをなかったことにする面の厚さは半端じゃない。大脳までロシア人の面の皮は食い込んでいると思いました。ロシアの各国における代表者は同じような答弁を繰り返していますが、国の不利になる発言をしたら左遷されるだけなのでしょう。この強弁が評価されたのか在日露大使は、めでたくロシアの外務次官になりました。もちろん本国の意向に反する答弁をするとすぐに送還、左遷が待っているのでしょう。


 厚顔無恥と思われるラブロフ外相でさえ、プーチン大統領の前でウクライナ侵攻についての意見を求められたとき、答弁に窮し口ごもり、しどろもどろになったのには驚きました。また、ウクライナ侵攻の不首尾を問いただすために大統領が、ショイグ国防相を呼びつけた映像がありましたが、その映像は悪戯が、見つかって御主人様に叱られている忠犬そのものでした。糾すだけの映像は日本人には奇異に見えますが、ロシア国民に大統領の絶対性を見せつける映像なのでしょう。


 相手の立場を思いやる文化のある日本人には滑稽な映像でしたが、外国では、下手に出るのは弱さを見せること、胡麻を擦るのは立場の弱さを認めることと理解されています。

 大統領が、国民に愛されているという映像もありましたが、国家に所属する職員に対しては常に居丈高なのです。同じように日本の総理大臣が、閣僚を呼びつけて相手がしょげて縮み上がる迄叱責する映像を放送したとしたら、日本国民はどう思うでしょう。なんて思いやる心のない指導者と非難されるでしょう。根回しの遠因にもなっているので、思いやり過ぎるのもどうかと思いますが、相手が面目を失くすまでしないのが日本です。 



第4節

 宗教の話をしていたのに話が少しそれました。

 ロシアではプーチン大統領の威光は絶大なのですが、それにはロシアの宗教が関係してくるのです。


 キエフ・ルーシ―の時代、古代スラヴの神格(ペルーンとヴォロス)を捨て、キリスト教に改宗する(988年)。しかし、このキリスト教は東方正教であって、理念は西のキリスト教と別の宗教と考えても良いほどのものです。


 ローマカトリックキリスト教では、世俗の権力の頂点にある皇帝の外側に、宗教的権威のローマ法王が存在しています。神に対して法王が第一人者なのです。並列関係ともいえます。


 一方、東方正教では、天上の神(パントクラトール)の地上におけるその代理人(アウトクラトール)が、皇帝となっており、ビザンツ皇帝は、世俗権力と宗教的権威を独占していました。

 1453年に東ローマ帝国(ビザンチン帝国)が滅びたときに、モスクワ大公のイヴァン三世が東ローマ帝国の皇女を嫁に迎え、双頭の鷲の紋章も引き継ぎ東ローマ帝国の正統な後継者を宣言します。ここから、のちのロシアに至る時まで、皇帝や大統領が両方の権力を持つことになります。

 プーチン氏は、大統領であり、神の地上における代理人であり、宗教的権威の頂点であり、ロシアの首席エクソシストなのです。


 年配の方なら映画「エクソシスト」を見て、どのようなものかある程度分かっているかもしれません。簡単に言うとエクソシストとは、悪魔と直接対話して悪魔祓いをする人のことです。


 キリスト教と関係のない人は違和感を持つかもしれませんが、カトリックの本場イタリア、ローマ、バチカンでは、エクソシスト養成講座があり、イタリアの地域ごとに一人選ばれた神父が「悪魔とは何か」理解するために精神医学、社会学、法学などを学び、課程を修了した神父は、エクソシストとして協会に登録されてそれぞれの地区に配置されています。現在イタリア国内に300人以上のエクソシストがいます。


 医学で説明できない病名が分からない原因不明の症状のある人を救済するためにお祓いをします。イタリアでは、年間50万人の人がエクソシストに相談して、除霊や悪魔祓いを受けています。


 また、悪魔祓いの聖地、人口3000人位のサルシナにある聖ヴィシニウス教会では、1700年前から、「首輪の儀式」を行っており、この小さな村に年間7万人の人が悪魔祓いを受けに来ています。日本でも、徳島県三好市の賢見神社で犬神憑きのお祓いをしています。 

 

 この章の初めの方で宗教について書いたのは、宗教心の恐るべき力を知ってもらいたかったからです。

 ロシアを代表してその恐るべき力を持っているのがプーチン大統領です。(能力ではなく宗教的権威としてだとおもいますが)

 プロパガンダで洗脳されているとはいえ支持率は80%を超えています。大統領に会えなかったと言って泣いていた少女をクレムリンに招待して国民に寄り添っていることを演出しています。年金制度は充実していて政権批判さえしなければ暮らしていけるようです。 


 ロシア政府と国民の間には暗黙の了解として政府が国民の生活を保障する代わりに国民は政府の方針に異を唱えないというものがあります。生活の保障には戦争に一般市民が動員されることはないというものも含まれます。

 それでモスクワの市民は戦争中でも比較的平穏に過ごしているのです。戦争特需で収入が上げってきていて豊かさと、戦争には参加しないという安心感が、この戦争批判に繋がっていないようです。


 ウクライナ戦争では、プーチン大統領は国民に戦時体制を宣言できないために職業軍人だけの「特別軍事作戦」と言い逃れしています。国民の支持のない戦争はいつか破綻を招くに違いない。国民を総動員しても大日本帝国は勝てなかったのです。


第5節

 1815年のウィーン体制以来、世界の五大国は、英、露、仏、墺、普(独)であり、その下に米、日、伊がありました。

 1914年、セルビアの一青年がオーストリアの皇位継承者を暗殺したことから墺はセルビアに宣戦、墺の同盟国(三国同盟、独、墺、伊)であった独は、三国協商(英、仏、露)側の仏に開戦、続いて、露、英にも開戦。ドイツ軍の勢いはロシア軍を圧倒する。タンネンブルクの戦いでロシア軍完敗。


 1916年に日ロ協商を更新したばかりの日本はロシアがドイツに負けると日本にも危機が訪れると考え、中国大陸や南太平洋からドイツ軍を駆逐しました。日英同盟により海軍を大西洋に派遣した大日本帝国は、カナダから地中海に至るまでドイツ軍の潜水艦(Uボート)から同盟国の船舶を守りました。その功績で大日本帝国は欧州大戦後、1919年のヴェルサイユ条約により世界の5大国(英、米、仏、日、伊)となりました。


 ロシアに勝つには内部から崩壊させなければならないと考えたドイツは、封印列車で亡命中の革命家ウラジミール・レーニンをロシアに送り込み、革命を成功させました。これによりロシア帝国は滅び、世界同時革命を企むソヴィエト連邦が、1922年に建国されました。


 太平洋戦争に負けるまで日本は、大国だったのです。しかし、大国はいつまでも大国のままでいられない。

 神聖ローマ帝国、ペルシャ帝国、ポルトガル海上帝国、フランス植民地帝国、清朝、元、スペイン帝国、ロシア帝国、モンゴル帝国、大英帝国などなど、帝国は隆盛し衰退する。栄枯盛衰を避けることはできない。王朝の滅んだあとに必ず残るのは民草だけなのである。


 建国されたソヴィエト連邦も、1989年のベルリンの壁崩壊とともにソ連の衛星国が次々と独立を宣言してロシアから離れていきます。15の共和国だったソ連からエストニア、ラトビア、リトアニアも離脱していきます。


 1991年8月軍部によるクーデターが起こり、ソ連邦大統領のゴルバチョフが誘拐監禁されますが民主化を求めるロシア共和国大統領ボリス・エリツインが民衆を率い軍の行動を阻止します。

 こうして、ロシア帝国を乗っ取って成立した共産党一党のファシズム国家ソ連は崩壊しました。この時、民主化したいエリツイン大統領は、ウクライナとベラルーシを誘ってソ連邦から離脱したのですが、プーチン大統領は、これが過ちだったと批判しています。


 プーチン大統領に大統領職を禅譲したのは、エリツイン大統領で、大恩人のはずなのですが、自分の信念は曲げないところがプーチン大統領なのでしょう。そういえば、おいしい料理を食べさせてくれ、バフムトで戦果を挙げロシアに貢献したプリゴジン氏の自家用航空機を打ち落としてしまいました。(ロシアの法則6)


 プーチン大統領は、子供の頃に大軍隊でも攻略できなかった敵を一人のスパイが、大打撃を与えて、味方を勝利に導くロシア製スパイ映画を見て、旧ソ連の国家保安委員会(KGB)に志願して入りました。

 反革命、反国家分子の摘発を行う政治警察です。大日本帝国の特別高等警察(SHP)と同じものです。特高は、1945年の敗戦とともに連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)の人権指令により廃止になりましたが、KGBも1991年の10月に解体されました。


 プーチン大統領の見た映画は、イギリス製スパイ映画007のような映画だったのでしょう、プーチン大統領も少年の頃は祖国を思う好青年だったのです。KGBに入ったプーチン大統領はソ連共産党の思想を守るため、反国家分子を殲滅するために第二次世界大戦で占領した東ドイツで裏仕事をやっていました。そんな時に、ベルリンの壁が壊されたのです。

 

 ワルシャワ条約機構の国々は離反して、ソ連邦から構成共和国は次々に独立していきます。プーチン大統領が、使命感を持って裏仕事を引き受けていた根本となる巨大な革命国家が崩壊して小さくなっていくのです。今まで、何のために反国家分子を取り締まってきたのでしょうか。色々な思いが去来したことでしょう。


 東ドイツからロシアに戻ったプーチン大統領は、KGBの後継組織であるロシア連邦保安庁(FSB)で昇進を果たし、1999年8月の首相就任時には、長官のポストにいました。

 秘密警察の代表です。年末には大統領職に就きます。エリツイン大統領は消される前に大統領職を禅譲したのでしょうか。プーチン大統領は、強いロシアの復活を目論んでいるとされています。大国の衰退を食い止められるでしょうか甚だ疑問です。

 歴史という大河の流れには何人といえども抵抗できないと思うのです。


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