第一章:「赤い目を宿し、"死"を失った日」
第一話「赤黒の瞳が視る世界」
数ある作品からご覧頂きありがろうございます。
混乱しないように説明しておきます。
こちらの作品は、”生存ルート”と”死亡ルート”がございます。
第18話が分岐点です。どちらから読んでも支障はございません。
それではお楽しみ下さい。
✳︎✳︎✳︎
突然だが、お前は自分が主人公だと思っているか?
俺は思ってる。いや、そうでも考えていないと、気が狂いそうだからだ。
この世界には自分より優れた奴なんて、星の数ほどいる。圧倒的な才能を持つ者、血の滲む努力を重ねた者、運よく成功を掴んだ者……。そんな連中を見て、俺はいつも思う。
──俺は、何のために生まれたんだ?
人間は不思議な生き物だ。
食って、働いて、寝る。
端的に言えば、この三つを繰り返すだけで生きていける。
だが、そこに例外がある。
それが、「死」だ。
俺は何度も死にたいと思ったことがある。でも、死ねなかった。
怖いんだ。死んだら天国があるのか、地獄があるのか。
そもそも天国や地獄なんて、本当に存在するのか?
どうやって振り分けられる? その境界線はどこにある?
疑問だらけで仕方がない。
借りパクって犯罪なのか? それがアウトなら、俺はもう地獄行き確定だな。
さて、色々と語ってきたが──。
まぁ要は、人間、死ななきゃ分からないこともあるってことだ。
天国と地獄の行き方?
俺は知ってる。
死ねばいい。簡単だ。そうすれば答えが見えてくる。
ただし、選んで行ける保証はない。なぜなら、“第三の選択肢”があるからだ。
それが『無』。文字通り、何もない。
──とはいえ、天国も地獄も同じことだ。生前の記憶を持って行けるかどうかなんて保証はない。
つまり、何が言いたいかと言うと──。
---
「まただ。またあの嫌な音だ」
鳴り響く電車の音。通勤の報せだ。
俺は、いわゆる“子供おじさん”だ。引きこもって、シコって、寝る。
それ以外は特に……ああ、食って寝て、くらいはしてる。
でも、俺は気がついたんだ。
『働かずに食う飯は美味い』って言葉があるだろ。
──あれ、嘘な。絶対に、働いて食う飯の方が美味いに決まってる。
俺の母親は料理が下手じゃない。むしろ、料理人の娘だからか、かなり上手い方だ。
だが、味がしない。美味いのに、味がしない。
矛盾してるだろ? でも、わかる奴には分かんだよ。俺みたいなクズ人間は、共感するもんなんだ。
働く意思はある。でも、その一歩が、どうしても踏み出せない。
「ああ……うるせぇ」
また電車の音だ。電車の近くに家がある。それ故に、毎日聞こえてくる目覚まし時計。
そのおかげで、朝は最悪、昼も最悪、夜も最悪。
こんな俺でも、昔は頑張って働いていたんだぜ?
……これ、子供おじさんは皆言うんだけどな。
「人生つまんねぇ」
いつも考える。
──ああ、これはきっと、俺の思考回路はショート寸前。
なんだか目の前が、真っ白に見えてきた。
たまに画面の見過ぎで起きる。だから俺も、最初はそう思っていた──。
「あれ……なんか目がぼやけて……」
目をこすっても止まらない。それどころか、どんどんぼやけていく。
「ゲームのし過ぎか……とうとう脳だけじゃなく、目もイカれたか」
ゲームもできなきゃ、これじゃ俺の生きる意味がなくなったも同然だ。
「もう死んだわ、これ」
目が霞む。
暗い部屋に閉じこもる毎日。働く兄の姿を見てきた俺は、いつもその後ろ姿だけを追っていた。
でも──追いつけないんだ。
始めはいい。でも続かない。それが俺だ。
「もういっそ、楽にしてくれ──」
俺はベッドにダイブした。痒いし、汗臭い。最後に洗ったの、いつだっけな。
瞬間──。
「うっ……なんだコレ……目が痛てぇ……くっそ、なんだよっ!」
視界が急激に白くなり、激しい痛みを伴う。
「ゲームっつっても、今日はまだ十六時間程度しかやってねぇぞ」
俺は目薬を探した。しかし、視界が白くて見えない。
「くそ! どこやった、俺! 目が……ああああああああああ」
目の奥が焼けるように熱い。
……目を覚ました。
「……治った……のか?」
どうやら、いつの間にか寝てしまったようだ。特に違和感はない。
俺は早速、PCに向かい、検索する。
「白くぼやける……これじゃない。目が痛む……くっそ、これでもない! なんて調べりゃいいんだ、これ」
どれも、俺の症状とは違うものばかり。
イライラして、コンセントごとPCの電源を切ってやった。
「くっそ…………ん?……なんだ……これ」
俺は、自分の目を細めた。
「おいおい、嘘だろ……」
真っ黒なPCの画面に写った俺の顔。
それは、別にいい。見慣れた顔だ。
だが、そこじゃない。
問題は──。
「なんだ、この目……」
PCに写った俺の目は、赤黒く染まっていた──。
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