乙女ゲーでモブに生まれた私、〇〇と仲良くなる

ナーソデ

彼らだってただの子供

 私の名前は如月 椿きさらぎ つばき、ごく普通の女子高生……ではない。

 何故なら、私には前世の記憶がある。

 そして、この世界は前世で夢中になってプレイしていた乙女ゲームの世界なのである。


 その事実に気づいたのは中学時代。

 高校受験を控えていた私は、進学先に悩んでいるとき、ふと手に取ったパンフレットの中に、見覚えのある名前を見つけた。

 【星空学園】——それは、かつて私が熱中していた乙女ゲームのヒロインが通う、学校の名前ではないか。


 ただの偶然かと思った。

 でも、パンフレットに載っている校舎の写真は、まさにゲームで見たそのままの景色。

 もしやと思い、攻略対象キャラ達の名前をスマホで検索すると——出るわ出るわ、各種大会やコンクールで名を馳せ、オマケに顔写真まで掲載されているではないか。

 ゲームでは見られなかった幼少期の姿があまりにも可愛くて、思わずガッツポーズを決める程。


 私は決意した。

 この世界で彼らと同じ時代を生きているなら、その成長過程をこの目で見届けるしかないと!

 そう思った私は猛勉強の末、見事、星空学園に合格したのだった。




 ——こうして始まった二度目の高校生活。

 しかし、私はヒロインでも悪役ライバルキャラでもない、ただのモブキャラ。

 攻略対象たちとは特別な接点もなく、遠目から『今日もイケメンだった』と密かに拝む毎日。

 彼らの存在は、私の学園生活の癒しであり、ささやかな幸せだった。



 そんな平凡な日常に、ちょっとした変化が訪れた。

 私に学校外での新しい友人ができたのである。


 それは、高校でできた友人と喫茶店で待ち合わせをしていた時のこと。

 早めに待ち合わせに到着したから、趣味の編み物で時間を潰していた。

 前世からの趣味で、通販でパート代くらいは稼げるくらいは、腕に自信がある。


「素敵ね。 コレ、あなたの手作りなの?」


 そんな私の作品に興味を示したのが、隣の席に座っていた上品な雰囲気の中年女性だった。

 最初は道具がどこに売っているのか話していたけど、だんだんと趣味以外の会話に花を咲かせてしまい、友達が来る頃にはあっという間に意気投合し、連絡先を交換するほどの仲になっていたのだ。

 最初は二人で編み物を楽しむだけだったけど、やがて彼女がご家族の話をするようになり——ふと耳に飛び込んできた、聞き覚えのある名前に驚愕した。


「えっ、今、なんて?」


 動揺を隠しながら話を続けた結果、なんと彼女が攻略対象キャラの母親であることが判明した。

 当然驚いたが、すでに友人として親しくなっていたこともあり、特に彼女に態度を変えることはしなかった。


 それからというもの、彼女をきっかけに手芸仲間が増えていき、気づけば集まったメンバーが、攻略対象キャラの母親という謎の空間が出来上がってしまった。


「この間、息子が中華丼を作ったら3杯もおかわりしたのよねぇ」

「わかるわ、うちの子も食べ盛り。 でも、きくらげが嫌いだから、いつも息子の分はきくらげを取り除いているの。 いい加減食わず嫌いはやめて欲しいわ」

「そうそう、制服を脱ぎ散らかしてて叱ったら……」


 手芸仲間として集まるたび、彼女たちは息子たちの家でのエピソードを楽しそうに語る。

 これがまた原作では知ることのない、身内しか知らない貴重な裏話が次々と飛び出して来るではないか。

 普段の学校で見せるイケメンキャラたちの学校と自宅でのギャップがあまりに強烈だった。

『うちの子、家では結構甘えん坊でね、こんなことしてるの』『(甘えん坊!?クールキャラ設定どこいった!?)』

 なんて情報が彼女らの口からマシンガンのごとく飛び交っている。

 母親の中ではいつまでも幼い子供だから、ただの『うちの息子可愛い』自慢でしかないが、彼らのプライバシーのプの字もこの空間にはない。


「(……この情報、本人たちが知ったら赤面どころじゃすまないわね。 まぁ、私が彼らと交流することはないし、ここで知った情報は内緒にしておこう)」


 私としては、精神年齢的に彼女たちと同世代感覚だから、会話も趣味も合うし、なにより攻略キャラたちの可愛い裏話を聞くことができて、内心ニヤニヤしながら、お母様方と、今日も楽しく穏やかな日々を送っている。


 ——ただ、この平穏が嵐の前の静けさだったなんて、当時の私は夢にも思わなかった。

 やがて攻略キャラたちにお母様方と友人だとバレて、彼らの顔から火が出るようなおもしろ展開が待っているなど……知る由もなかった。




終わり


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