💫❄️6🎅💫
アパートに戻ると、駐車場にアキオの飛空車が止まっていた。
中に、アキオはいない。
急ぎ足でアパートの階段を駆け上がって部屋の扉を開ける。鍵はかかっていなかった。靴を脱ぎ捨てて居間に入ると、アキオは畳の上に座っていた。
静かに立ち上がって、アキオが僕の方に向き直る。
「ハナシ、あるんだけど」
「僕も、話したかった」
お互いにひりつく視線を交わして、少しの沈黙が流れる。
最初に口を開いたのはアキオだった。
「オレ達、一緒に生活すんのやめた方がいいと思う。オレの気持ちにムリくり付き合わすのもよくねーよなって。オレももう、ぶっちゃけキツイし……」
「それが、アキオの言いたかった事?」
アキオは、答えなかった。
口を一文字に固く結んで、目を伏せている。
それ以上何も言わないアキオを見て、今度は僕が話を続ける。
「本当は僕、ずっとこのままでいいやって思ってた。今のままで十分だし、これで良いんだって。でも僕たちはそれじゃ、ダメなんだ。だから、終わりにしよう」
セーターと、ズボン。靴下に、下着。
身につけていたものを全部脱いで、自分の手でアキオの前にさらけ出していく。
そうして何も隠すものがなくなった時、アキオは小さく口を開けたまま、しばらく固まっていた。
今でも、覚えている。
最初の僕達の出会い――君は僕をそんな風に見ていた。
吸い込まれそうなキラキラとした瞳で僕を見つめる男の子。
君が、初めてだった。
「オレさ、今日死ぬ日?」
やっと声が聞けたと思ったら、出てきたのはそんなとぼけたセリフだった。
やっぱり、アキオってアキオなんだ。
自然と笑いがこぼれて、おちょぼ口のままだったアキオも、つられて笑う。
「ねえ。僕ばっか、恥ずかしいよ」
「マジで、いいの?」
「僕は、君が大事。君が僕を好きなのと同じぐらい大事だよ。それじゃ、ダメ?」
ずっと確かめるのが恐かった、僕の答え。
でもアキオは静かに首を振って、そして少し恥ずかしそうに自分の服を脱ぎ始めた。
そうしてアキオのありのままが、僕の目に映る。
手と、おんなじだ。
今までたくさん頑張ってきた、僕をずっと包んでくれていた身体だ。
じんと心から熱が広がって、そっと、アキオを抱きしめる。
少し湿った、あたたかい素肌越しに伝わる、心臓の音。
自分の鼓動と重なり合って、僕たちの身体に激しく響く。
「待たせて、ごめんね」
「いや。オレこそ、ゴメン」
「いいよ、もう。だって僕たち、今からだもん」
「そっか。そう、だな」
子供っぽい軽い口付けを交わして、長い長い十年を終わらせる始まりは、あっという間にやってきた。
溶けるような時間の中で、いくつもの出来事が流れ星のように流れては瞬いていく。
アキオが僕のためにサンタクロースの試験を頑張ってくれてたんだって初めて知った時の事も。
君と初めてつま先30センチの距離が縮まった時の嬉しさも。
大喧嘩して家を飛び出した僕を、公園まで迎えに来て「帰んぞ」って手を引いてくれた時のぬくもりも。
手作りのバラを女の子にプレゼントできた男の子に嫉妬する君の顔も。
父さんが骨になる前に会いに行く勇気をくれた声も。
ぜんぶ僕の中に流れて、溶けて、熱になっていく。
静かな夜が訪れた後から、薄ぼんやりと東の空が明るくなるまで——。
僕たちはずっと、お互いのぬくもりを確かめ合うように、抱きしめ合った。
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