第2話 風変わりな人

 警告をしてくることもなく、こいつらは焦っているのか、乱暴に魔弾銃を撃ってきた。手元が狂うのか、私に対して恐怖を抱いているようにすら見える。理由は知らないけれど、一刻も早く、私を処分してしまいたいのだろう。


 こいつらの願いも虚しく、何発も撃たれた銃弾は、指で掴めてしまうほどに目で追える速さだ。私にとっては何の攻撃にもならなかった。


 こちらに向かってくる全ての銃弾を躱し、こいつらとの距離を縮めた。いちばん近くにいた兵士の銃口を、そいつの顎下へと持っていき、手を離す——。

 途端に顎下から脳天へと銃弾は撃ち抜かれ、そいつは床に倒れ込んだ。

 一瞬の出来事に見えたのか、こいつらは状況を把握しきれていないようだった。


 足元に眼をやると、想像していたものとは全く別の光景がそこに転がっていた。

 撃ち抜かれたわりに血痕などはなく、身体から水分が抜けきっていて、枯れ木のような屍が視界に映る……。生き物が息絶えてすぐ、こんな姿になることはない。それは人でなしのこいつらであっても同じことで。なんとも気色の悪い光景だ。

 残りの兵隊どもですら、この死骸を見て、立ちすくんでいる……。


 こいつらの視線が、それに向いているあいだに、階段が続く下層へと眼を向けた。中央に、魔力を凝縮したような機械が作動しているのが見える。魔弾銃から感じた不気味さがこの魔力からだとわかった。


 私は、目の前のこいつらに構うことなく、機械を間近で確認するため、螺旋階段から下の機械まで、一気に飛び降りた——。


 死んでもおかしくないぐらいの高さから着地した私に、どこからともなく湧いてきた兵隊が、どんどん集まってきていた。


 手に持っていた鉄球の事をふと思い出し、向かってくる全てに振り回す——。

 ただの鉄球になぎ倒されていくこいつらを尻目に、私は機械に注意を向けた。


 魔力の機械を中心に、そこから枝分かれした八つの支柱が見える。

 その柱から、魔力の宿った小さな球体がいくつも生成されていく工程が目に入った。その球体が、こいつらの使用している魔弾銃の弾であることは一目瞭然だった。


 そもそも魔弾銃というのは、手に持つ者が自らのエネルギーを注ぎ、銃の構造上で魔力化し、それが銃弾となって、初めて武器となる。生きている人間であれば、誰でも扱える代物だ。ただ、使用する者によって注げるエネルギー量は違うため、威力はばらばらとなり、個人差が生まれる……。

 こいつら全員が同じ威力で撃ってくるという事が、その徹底的証拠となった。


 魔力は生物に宿るもので、それ単体が物質として世に存在し続けることなど決してない……。つまり、この生成された弾は、生き物の何かを媒体にして造られていることになる。


 なりふり構わず向かってくるようになったこいつらを躱しつつ、支柱に近づいた。

 支柱の中に入ったものの確認をする前から、嫌な予感はしていたけれど、実際にそれを目にすると、体は動かず、思考が止まってしまった……。


 中に入っていたのは、紛れもなく人で…………、皆んな子供だ——。




「……私だけが助かっちゃったみたいだね」



 無意識に口からこぼれた言葉を皮切りに、私は私の自制が効かなくなっていく。

 向かってくる兵隊も、生成された銃弾も、中央にあった機械も、無我夢中で破壊していった。独特に臭っているここの空気すらも煩わしい……。


 残すは支柱だけとなったところで、理性の吹っ飛んだ私の意識は、自我を取り戻した。手にはかすかな痛みを感じる……。振り回していた鉄球は、割れて壊れてしまっていたのか、手には鎖だけとなっていた。

 鎖だけを握り、素手で殴っていたのか、おかげで手には色々なものが刺さっているし、驚くほどに血まみれだ。


 支柱に入った『モノ』と向き合う……。これ以上、中のモノが傷ついてしまわないように、ゆっくりと指を押し当てた——。

 亀裂が入った部分から、液体とモノが流れ出ようとしている。

 ……中から出てきたモノをしっかり受け止めて、丁重に床へと置いた。


 二つ目の支柱を破壊したぐらいから、中央の機械から小さな爆発音が聞こえてきていた。恐らく、この子たちの血液か何かを媒体にしていた魔力が、私の手によって行き場を失い、爆発をし始めたのだろう。



 八つ全ての支柱を壊してまもなく、私の背後で大爆発が起きた——。



 爆風で吹っ飛ばされてはいるけれど、意識は案外しっかりしている。状態を確認しようと目を開けてはみるものの、ただただ真っ赤な景色が続いているだけだ。

 どの方向が天と地なのかもわからないままに、地面へと打ちつけられる——。

 その衝撃にしばらく動けず、燃え盛る塔を見つめていた。



 熱風がすぐそこまできていた……。

 私はなんとか体を起こし、爆風が薄まっている場所まで移動した。……満身創痍だった。

 私は振り返り、改めて燃え盛る塔を見つめた。ここまで歩けたことが不思議なくらい、一瞬で足腰から力が抜け、その場に崩れた。それでも目線は、燃え盛る塔から逸らすことができないままだった。


 呆然と見つめていた私に、話しかけてくる男がすぐ隣に立っていた……。

 いつから居たのか、足音さえ聞こえなかった。爆音で何を言っているのか、あまりよく聞き取れない……。それを理解したのか、座り込んだ私に近づいて、よく聞こえるように話し出した。



「これは、これは。盛大に燃えているね!これじゃあ何も残らないだろうなぁ!困ったものだねぇ……。ちなみに、これは……、君の仕業かな??」


 男の問いに何を答えればいいのかわからず、私は黙り込む。


「もしこれが、君の仕業だとすれば……」

 

 男がまじまじと私を見る。反射的に睨み返した私に、男は構わずこう続けた……。


「……もし本当にそうだとするのなら、、お見事のひと言に尽きるよぉ……っ!」



 そう言って、満面の笑みを向けてくる。思っていた言葉とは、全く違う言葉を浴びせられ、私は拍子抜けしてしまう。


 男は白いローブを身に纏い、深い藍色の長髪で遊び人のような雰囲気はあるものの、『規律正しい』という言葉の似合う雰囲気を醸していた。口調も相まって、色んな人格がつぎはぎのように縫い付けられたような感じ……といえばいいか。

 こういう人を風変わりというのだろう。


 状況が飲み込めずにいた私に、風変わりな男は優しく私の手をとった。



「この手は絶対痛いよねぇ。僕なら気絶しちゃうよぉこれは。急いで手当てをしなくちゃね。それと、、君、行く当てはあるのかな?無ければ、僕たちと一緒においで!」



 どうすれば良いのかわからず、困り果てた私をよそに、風変わりな男は話を進めていった——。







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