スペオペ勇者~聖剣一本でどうやって戦えばいいんだ!? え、意外となんとかなる?~

海星めりい

スペオペ勇者~聖剣一本でどうやって戦えばいいんだ!? え、意外となんとかなる?~


「ここ……どこだ……?」


 一人の少年が目を覚ます。

 少年は名をひじり せいといいごく普通の男子高校生だったはず……だが、なぜこんな見知らぬところにいるのか全く覚えがない。


「駄目だ……なんも思い出せねえ」


 頭を捻ってもなにも思い浮かぶものはない。

 幼少期の思い出や父母の顔は思い出せるので、完全な記憶喪失というわけではなさそうなのが唯一の救いだろうか。


 石畳の上に寝転がっていた聖は学生服についている汚れを払いつつ起き上がる。

 聖が今いる場所は壁、壁、壁……すべてを壁で囲まれた場所だ。

 ぱっと見て窓や穴はなく、どうやってここから出ていくのか――そもそもどうやって入ったのかさえわからない。


(足元には石畳。おまけに壁には石が積み上げてあるってことはここ一応、人工物ってことだよな?)


 一部、積み上げられた石壁が崩れているところを見ると、相当長い間放置された洞窟のようにも思える。

 つまり、ここは誰か(複数かもしれない)が何らかの目的の場所として作ったのは間違いない。


(脱出は無理そうか……)


 壁の土を落ちている石壁の破片を使って掘り進めていけばどこかに繋がっている可能性はあるが、何メートル掘ればいいのかもわからない状況でとる選択肢ではないだろう。


(そうなると……)


「あれについて考えないと駄目ってことだよな」


 先ほどから周囲を伺っている時点で視界には入っていたのだが、どうにも関わり合いになりたくなかったのだ。

 聖が視線を向けた先には――見るからに抜けと言わんばかりに黄金色の長剣が台座に刺さっていた。


 この薄暗い洞窟の中でも微かに光る剣と台座。

 それだけでも、神聖さが垣間見えるというのに、あの一帯だけマイナスイオンでも発生しているかのような澄んだ空気さえ感じ取れる。

 控えめに見積もっても聖剣や伝説の剣等と呼ばれるものであるのは間違いない。


(抜くしかないか……そもそも抜けんのか? これ?)


 外との連絡手段もなく、出れそうにもない。

 なら、やれること全部やるしかない――の精神で聖は黄金色の長剣の柄を握りしめる。


(まぶし!?)


 その瞬間、眩い閃光が聖を中心に洞窟内を覆い尽くす。

 閃光はすぐに収まったが、聖は目をパチパチと瞬かせて視界が戻るのを待った。


「なんなんだよいったい……ふつーに抜けんのな」


 眩しさに驚いている間に聖剣(と呼ぶことにした)を抜いてしまったようだった。

 特に抵抗もなくスルリと抜けたせいで、誰にでも抜けるものなのか聖が特別なのかわからないままだ。


(どうやら、七年経ってる……とかはなさそうだな)


 精神体の賢者とかが出てくることもなく、自分の身体が成長しているようなこともなかった。

 服は起きたときから来ている学生服のままだし、先程まで探索していた足跡も劣化したような感じもない。


「これで俺が勇者様ってか?」


 なんて、聖が冗談めかして言ったところでゴゴゴ! と音を立てて、洞窟の一部の壁がズレて通路が出現した。


「マジかよ……抜いたのは正解ってことか」


 あまりにあっけなく開かれた通路に呆然としつつも脱出のチャンスはここしかないため、小走りで駆け抜けていく。

 通路は二人で横に並んで歩いても余裕があるくらいの大きさだ。

 聖一人だとかなり猶予がある。

 ただ、壁や床などは先程までいた小部屋と変わりなく、劣化しているのが節々に見られる。


(ちょっと登ってるか? ん?)


 少々、傾斜のついた通路を進んでいくと奥に光が見えた。


「うわ…………」


 洞窟の外へと出た聖は思わず言葉を失った。

 視界に映る光景があまりにもひどいものだったからだ。


「廃墟じゃねえか」


 そこにあったのは、朽ちてボロボロに崩壊した建物がそこかしこに存在していた。

 何がどうしてこうなったのかは定かではないが、洞窟と同様に長い年月が経っていることが伺える。


(時代的には中世とかその辺か? これが聖剣だとするならファンタジーっぽい感じか? どの道、人――獣人とか精霊でも可――に会って状況だけでも聞きたいところだな)


 ドラゴンにでもやられたのだろうか、などと考えながら歩いていると、足音のようなものが聞こえてきた。


(誰かいる!? すぐにでも話しかけたいけど……)


 こんな廃墟を歩いているなど普通の人物であるかどうかは微妙だろう。

 そう判断した聖は手近な廃墟の影に隠れて様子をうかがうことにした。


(冒険者っぽい人で頼む。魔物は勘弁だぞ)


 そう願う聖の下へ現れたのはカタカタと歩く複数体のヒトガタだった。

 どう見ても人間には見えないが、かといって魔物のようにも見えない。


(ゴーレム……じゃないな。どう考えても機械的な存在だろ、あれ)


 一瞬、ファンタジーの代表物であるゴーレムかと思ったが、眼の前の存在はそれよりは機械――ロボットと呼ぶのがふさわしい見た目をしていた。全身金属のヒトガタだが、鎧というよりは骨組みに軽く装甲を貼り付けたような薄い見た目をしている。

 装甲の一部からはコードが見えており、頭部にはカメラらしきものがあることを考えるとロボットっぽいという感覚はそう間違っていないだろう。


(で、これ敵、味方(中立)どっちだよ? 話しかけたら答えてくれるのかどうかすら、わかんねえぞ……)


 話しかけにいくことさえためらいそうなロボットたちを見て、聖はとりあえず関わりにならないことを選択する。

 厄介事である可能性が怖かったからだ。


 だが、相手がロボットだった時点でその選択は無意味だったのかもしれない。

 ウィンウィンと、駆動音を立てながらロボットたちは周囲を確認しだす。

 すでに、聖は様子を伺うのをやめており、廃墟の壁で体を完全に隠しているためカメラには写っていないはずだがロボットの視線はバッチリ聖の方を向いていた。


「侵入者を検知しました」


「ま、待ってくれ!? 侵入者じゃない!? 気付いたらここにいたんだ!」


(熱源探知のセンサーとかあったのか!? それとも別のなにかか!? どのみち、出るしかなかったとはいえ、こいつら銃っぽいもの持ってんじゃねえか!? こえーよ)


 どう考えても自分の方向を見て出された言葉に聖はさっさと出て言い訳をするが、ロボットたちは銃口を聖に向けたまま微動だにしない。

 ひょっとして、話を聞いてくれるのだろうか――と思った矢先、


「――攻撃モードに移行します」


「ちょ!? 話を!? くそっダメか!?」


 わめく聖を無視してロボットたちが手に持っている銃から光が放たれた。

 ロボットたちが話を聞く気がないと思った時点で後ろに飛んだため、初弾こそ回避できたものの当たった地面は多少とはいえ凹んでいる。

 ということは、あの銃は光が出るだけの玩具の銃……なんてことはなくビームガンやレーザーガンのような代物であることは間違いなかった。

 避けた聖に対してロボットたちの銃口が動き聖を付け狙う。


「死ぬって!? ホント死ぬって!?」


 聖剣らしきものを抜いたことで身体能力があがったのか、火事場の馬鹿力なのかは定かではないが、走って逃げ出すことには成功したものの、ロボットたちが黙って逃がしてくれるはずもない。


 ロボットたちは聖を追いかけながらビームを放ってくる。そして、この距離では何体もの敵にビームを撃たれて全てを避けられるわけもなく――


(マッズ!? これは……死ぬ!?)


 そう思った聖の胸に一筋のビームが命中し、今まさに胸部を貫かんとしたところで――バシュウ! と音を立てて、ビームが霧散した。


「はい?」


 状況がわからずに思わず呆けて足が止まってしまった聖だったが、ロボット達はそんなことはお構いなしに次々とビームを連射してくる。

 そして、その都度、バシュウ! バシュウ! と聖に当たったビームは霧散していく。


(なんだ? なにが起きてる? 頼む誰か状況を教えてくれ)


 聖が心の中でそう願うと、


 ――光耐性により攻撃を無効化しました。

 ――光耐性により攻撃を無効化しました。

 ――光耐性により攻撃を無効化しました。

 ――光耐性により攻撃を無効化しました。

 ――光耐性により攻撃を無効化しました。

 ――光耐性により攻撃を無効化しました。


 以下同文で、こんな文字列が脳内を流れていく。

 なにやらログのようにも思える文字列だ。


(光耐性? ゲームとかでよく見る属性耐性ってことか?)


 〝光耐性〟とは読んで字のごとく光への耐性という意味だろうが、聖が思いついたのはそれだった。

 炎属性の魔物やボスには炎属性攻撃は無効化されたり、水属性の魔物やボスには水属性攻撃は無効化されたり――……という割とよくあるパターンの設定だ。

 同属性同士だと効果がないと考えるとわかりやすいだろうか。


 それを今の聖が置かれている状況に当てはめると、手に持っている聖剣(っぽいもの)によって自分が勇者(みたいなもの)になったと思われる。

 勇者になったことで聖は〝光耐性〟を獲得した可能性が高い。


(ビームって要するに粒子のことだよな? フォトンとかタキオンだっけ?)


 レーザーやビームは作品や設定にもよるがオリジナルの粒子等を使った光学兵装として描かれる事が多い。

 つまり、レーザー・ビーム≒光属性という等式は成り立つ。


(だとしたら、このビームを無効化しているのも納得できる……わけねーだろうが!? SFにファンタジーの理屈を無理やり混ぜんじゃねえ!?)


 内心ではツッコミを入れつつも、その大雑把な属性適応によって今現在、聖は無事というわけだった。

 それしか武装がないのか、ロボットたちはビームガンを撃ち続けるが聖に効果は一切ない。


(ずっと、追いかけられるのもうざいか……)


「やるしかねえ!」


 この聖剣で斬れなかった場合は逃げ一択になるが、試すだけならタダだと腹をくくってロボットたち目掛けて駆け出していく。


(弾幕に向かっていくのってありえないぐらい怖え!? 弾幕シューティングの気持ちをこんなリアルに味わうとは……)


 放っているビームが効かないからこその無茶だが、間合いには最新の注意を払っていた。

 あまり素早さはなさそうなロボットたちだが、力がどの程度なのかわからないからだ。


「はああああ!!」


 ロボットたちへと接近した聖はなんとなくで聖剣を振るう。

 当然、剣の振り方など習っていないが意外と様になっている軌道で振り下ろされた聖剣はロボットの胴体をしっかりと捉えていた。

 袈裟懸けに振り下ろされた聖剣はロボットの装甲に弾かれることなく、まるでバターを熱したナイフで切るようにスパッと切断していく。


「これならやれる!」


 そのまま、ロボットたちを聖剣で次々と切り裂いた聖はひとまず周囲から増援が来ないことを確認する。


(なんとかなったけど、こんな危険なロボットがいる星どうすりゃいいんだ?)


 ロボットが侵入者と言った以上、あのロボットたちは管理している側ということだろう。

 せめて、話せるタイプならよかったのだが、機械的なプログラミングでもされているのか聖の言葉を聞く素振りがまったくなかった。


(とりあえず、また散策してみるしかないか)


 そう考え歩き始めた聖だったが――


「どこも廃墟ばかりじゃねえか……」


 歩けど歩けど、廃墟しかない状況に嫌気が差してきた聖だったが、唐突に空気が震えるのを感じ取った。

 それに付随してゴゴゴゴゴゴゴ……という音も聞こえてくる。


(あれは……?)


 音の発生源を向いてみれば、何やら巨大な船が空を斜めに飛んでいくのがみえる。

 明らかに飛行機ではないものが空を飛ぶのを見て、聖は思わず目を丸くする。

 そのまま、速度を上げて飛んでいった船はいつしか空の彼方へ消えてしまった。

 どうやら、この星の成層圏を抜けて宇宙へと旅立っていったらしい。


(あんな船が飛び立っていったってことはあそこには何らかの施設があって、そこには人がいる可能性が高い……いや、あのロボット共しかいない可能性もあるか)


 船が離着陸出来るような施設があるのは間違いないがどんな状況なのかは行ってみなければわからない。


(んー、廃墟しかないところをみるとこの星は滅んでいて宇宙にはどっかに人がいるとかいうパターンもあるか。それなら船を一隻分捕れば俺も宇宙に行けるが……。どの道このままこの辺りを散策したって飢え死にするだけだ。なら動けるうちにそこにいってみるってのはそこまで悪くない……のか?)


 少々、短絡的な考えなのは否めないが、目に付くもの廃墟しかなく食料もない状況では仕方がない面もある。

 戦闘になる可能性は大いにあるが手探りで状況を探っていくしかない現状だと多少の無茶は許容範囲といえるかもしれない。


(あの船が離着陸している場所がロボット共の基地とかじゃないなら話し合いを試みてみることにして……行くか!)


 切断したロボットの残骸には目もくれずに聖は船が飛び立っていった方向へと駆け出すのだった。



 *****************



 船の離着陸した場所へ向かってみると、何やら戦闘音のようなものが聞こえてきていた。先程、聖に撃ってきていたビームガンの音も聞こえてくる。


(誰か戦ってるのか?)


 早足で向かった聖が目にしたのは大量のロボットの軍団。

 そして、そんなロボットの軍団と戦っているアーマーのようなものを着込んだ人型だった。

 その後ろには小型の宇宙船らしき船もあり、あのアーマーの人型が何を守っているのかは明白だった。

 彼らの姿は宇宙服のようなアーマーに覆い隠されて完全には見えないが、あの中身は聖と同じく人類もしくはそれに類する人が入っていると思われた。


(彼ら(彼女かもしれないが)を助ければ、俺もこの星から脱出できるかもしれねえな)


 恩を売れば、助けてくれる可能性は高い。

 脳内で計算を弾き出した聖は観察するのを止め、


「援護する!!」


 通じるかはわからないが大声で思いっきり叫び、眼下に見える集団に向けて駆け出す。

 聖が叫んだ声に狼狽えたような仕草をする彼らだったが、それはロボット共も似たような反応だった。

 唐突に戦場に現れた学生服の少年――よくわからない存在を排除すべくロボットの部隊の一部が反転し、聖に向けて銃口を構える。


(はっ、マジで怖えな……だが、行くしかねえ!!)


 先ほど撃たれまくったビームガンだけではなく、ランチャーのような口径の大きい砲塔やガトリング砲らしき兵器が一斉に光り輝き聖へと放たれる。


 極太のビームやガトリングによって放たれた光弾に曝されながらも、聖はその全てを無効にし――


「俺は光の勇者だぁああああああああああああああああああああああああああ!」


 この星を脱出すべく聖は自身を奮い立たせるようにそう叫ぶと、ロボットの大群へと聖剣を構えながら駆け出すのだった。




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スペオペ勇者~聖剣一本でどうやって戦えばいいんだ!? え、意外となんとかなる?~ 海星めりい @raiki

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