第8話 帰還

 飛翔枠、グレイ・ウィングレットの記録が告げられる。


「580メートル!」


 歓声が沸き起こる。グレイの切れ味鋭い滑空は見る者全てを魅了していた。理想的な翼を持つ若者の完璧な飛行。それは間違いなく、スラードラ族の誇りそのものだった。


 表彰台の上でグレイは静かに空を見上げていた。夕暮れが近づき、オレンジ色に染まった水平線の向こうにはもう弟の姿はない。


「思念波による報告です」


 第二救助艇の魔法使いの声が張り詰めた空気を切り裂く。


「お笑い枠、11番、ライト・ウィングレット。未だ着水せず!」


 会場がざわめいた。飛翔競技の記録更新も、突如として色あせて見える。


 

 ◆

 


 夕陽が沈み、月が昇り始める頃。オールド・フィンの乗る第二艇がゆっくりと港に戻ってきた。甲板には小さな影。月明かりの中、それは確かにライトの姿だった。


「ライト!」


 グレイが駆け寄る。ライトは疲れた様子だったが、その目は輝いていた。


「おめでとう、グレイ」弟は優しく微笑んで言った。「君の記録は、本当に素晴らしかった」


「いや」グレイは首を振る。「今日の主役は、お前だ」


 ガルーダの翼は月光を受けてかすかに光っていた。マイクの投げた一瞬から始まり、水平線の彼方まで飛び続けたその軌跡はもう誰にも消せない。


「あの瞬間」ライトが静かに語り始める。「風が、父さんの声に聞こえたんだ」


 グレイは黙って弟の肩に手を置いた。二人の影が、月明かりに溶けていく。伝統の中に芽生えた小さな革新は、確かにスラードラの未来を変えていくだろう。


 それは、風と共に生きる全ての者たちの物語。小さな翼と大きな夢が織りなす、新しい空への序章だった。

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風の詩 ~スラードラの翼~ イータ・タウリ @EtaTauri

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