第10話 工夫すれば
「新式の風車はすでに実験段階です。機能は十分とは言えませんが、弱い風速においてもかなりの発電が期待されます」
テレビでの政府の定例会見が行われ、大臣がそう発言した。
すかさず若い記者が質問をした。
「いつできるのですか?」
「近いうちです」
「人類は滅亡の危機にあるのですよ、完成して設置したけれど人類が滅亡していたら意味がないではないですか?」
「そうならないために急がせています」
「いつできるのですか?」
「……」
大臣は、救いを求めるように会場を見回した。
すると別の年配の記者が質問した。
「エネルギーが不足し、動力が不足しているなか風車はどのように作るのですか?」
「そこで皆さまにお願いがあります」
大臣は一度頭を下げ、また画面に作ったような険しい顔を向けた。
「新式の風車の製造に向け現在動力が足りません。よってさらなる節電を…」
テレビを見ていた大人達の溜息が聞こえた。
一斉に子供達の何人かが懐中電灯とカードを持って立ち上がった。
そして皆、暗い廊下を歩き暗い教室へと向かった。
「電池の節約のためにみんなの消してさ、これひとつだけ使って、ババ抜きでもしようよ。こうやって上からつるせば集まればできるよ」
僕はカーテンレールからひもをたらし、それに懐中電灯をひとつだけスイッチをいれたままつるした。みんなの中心が明るくなった。
「見にくいな…」
タカが言った。
「そのうち蛍光のカードができるわね」
この声はマリだ…
「それ売れるよ…」
ケンだな…
「大人は文句ばっかりでうんざり…」
またマリだ。
「確かにね…文句を言う前に工夫すればいいのに…」
タカだ。
ケンがカードを配っている。
「蛍光のトランプね~」
すべてのカードを配り終えてから、しみじみと言った。
「そうゆうのを工夫って言うんだよね、きっと…」
みんなのうなずく気配がした。
「でもさ…俺、確かにジョーカー持ってたんだけど、今ゲームが始まってもいないのになくなっちまったんだよ…」
全員が捨てられたカードに注目した。でも暗くてよく見えない。
「みんな覆いかぶさるなよ、かえって見えない…」
タカが言った。
ゆっくりと、手だけを出して誰もがカードをまさぐっている。
「あった…」
ケンだ…。
「蛍光のカード作ろう…ケンのためにも世界の子供達のためにもね」
マリの声が笑いながら響いた。
「それこそ人類の叡智だね…」
タカが続けた。そしてあの教師の口真似を大げさにしてこう締めくくった。
「人類の叡智は、またもこの危機を乗り越えるのです」。
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