第21話 江波都桜巳

「風呂とトイレ別じゃーん! 中々やるね、神様〜」

「……そうか」


 夢宙は早速、家の探索を開始している。

 気になる箇所を片っ端から開けては、感想をサザナミに告げていく。


「さては、家具とかも揃ってるんですね⁉︎」

「人間が住むには困らない程度の物は揃えてある。ベッドは一つしかないが、ソファの背を倒せば問題なく寝られるだろう」

「ガラガラはデカいから、ベッドで寝たほうが良さそうだね」


 ガラガラは夢宙の隣に並ぶと、首を傾げて「ほう」と理解しているのか怪しい返答をした。


「ガラガラって身長何センチなの?」

「測ったことがない。わからない」

「此奴は百八十だ」


 ガラガラの代わりに、サザナミが掃き出し窓を開けながら答える。


「そんなにあんだ⁉︎ いいなー」

「むちゅーも伸ばす?」

「夢宙はもう、成長止まったんだよ……」


 萎えている夢宙に、サザナミが「雨浦」と声を掛ける。


「この窓から、猫型の浮遊物が入ってくる。取っておいてくれ」

「あー。あの神様が、はべらせてる使い?」

「まぁ……そうだな」

「オッケー!」

「ガラガラは風呂に入って来い」

「風呂」


 サザナミは、テーブルに置いてあるタブレットを操作して『初めてのお風呂』という動画を再生する。

 その動画は、眼鏡をかけた黒髪の男が映っている所から始まった。


『ガラガラ〜! 俺だよ〜!』

「……博士」


 男の声を聞いた瞬間、ガラガラの瞳がキラリと光る。


「えっ! 博士⁉︎」


 開かれた窓から空を見上げていた夢宙が、ガラガラの言葉に反応して振り返る。

 そして、ガラガラの持っているタブレットを覗き込もうと背伸びをした。しかし見えなかったので、ガラガラの服を「見たい! 下げて!」と引っ張る。


「これ」

「おお〜! この人が、ガラガラを生み出した博士!」

「……其奴そいつの名前は江波都桜巳えはとおうみという。お前には、博士と呼ばれたがっていた」

「えはとおうみ博士」

「……博士でいい。お前にも、其奴は「博士だ」と教えていただろう」


 動画内の桜巳は、三つ編みになっている前髪を揺らし『今から、お風呂の入り方を教えて行こうと思いまーす!』と告げて、着ていた白衣を脱いだ。


『因みにこれは水着な。お前は全部脱いで入るんだぞ?』

「全部見終えたら入れ」


 そう言うと、サザナミはキッチンに向かって行った。棚を漁って、フライパンなどを取り出している。


「ガラガラは江波都博士のこと、お初にお目にかかる感じ?」

「うん」

「そっか……しかし、こうやって動画を残してくれてるなんて、愛されてますなぁ、ガラガラさん!」


 夢宙が肘でガラガラを突く。

 ガラガラは首を傾げて「愛され?」と夢宙の言葉を繰り返した。


「そうです! ガラガラが苦労しないように、江波都博士はこうやって動画を撮ってくれたというわけです! まるでお父さんですねぇ……」

「お父さん……」


 ガサッという音を聞いた夢宙が「あっ!」と声を上げて窓に向かう。


「神様〜! 使い来た〜!」


 キッチンにいるサザナミに向かう夢宙を見つめてから、ガラガラは再度動画に視線を落とした。

 動画の中の桜巳は、人好きのしそうな笑顔を向けながら『最初は冷たいんで、あったかくなってからかけましょう!』とガラガラに説明をしている。


 ガラガラは目を逸らさず、桜巳の表情や動き、話す言葉を全て記憶していく。

 座ることもせず、食い入る様にずっと見つめた。

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