第4話 神戸全国バレエコンクールに向けて

 四月に入ってバレエ教室では毎日のレッスンの後、本格的にコンクール組の練習が始まった。

 真美は今までいろいろなヴァリエーションに取り組んできた。そんな真美に美香が話しかける。

「神戸もエスメでいくか? 慣れてるキトリでもいいけど」

「エスメでお願いします」

「果敢やな。すみれさんと美織みおりさんか?」

 真美が頷く。

「ええ出会いやな。大切なことや」

 美香が微笑む。

「はい」

「でも、あのバレエ団、次々とバレエ学校の凄い生徒出してくるで。神戸も多分一位取りに来る。今度は、まず、うららに勝ち。神戸の男子部門は河合恵人かわいけいとが一位取りに来るいう噂で男子は恐々きょうきょうとしてるで」

「そうなんですか。河合恵人って、プリンシパルの河合瑞希かわいみずきの弟ですよね。そういえば、この前、たくさんバレエ団の人来てたけど、河合瑞希と河合恵人は見んかったな」

「別に全員応援に来なあかん部活みたいなんとちゃうからな」

 美香の言葉に周りにいた生徒たちが笑う。

 神戸のコンクールは東京の時と違い、大阪から近いこともありジュニア部門からシニア部門までたくさんの生徒が出場し、応援にも来てくれる。


◇◇◇◇◇◇


 毎日、遅くまで厳しい練習が続く。美香から手先、足先、体の向きと細かいところまで何度も指摘された。今までにないほど細かい表現まで要求される。

「舞台への登場の仕方が違うねん。エスメラルダやで。もっと堂々と出てき。そこにいる町中の人の注目を一瞬で集めんねん。真美が舞台に登場したら『眠れる森の美女』で眠ってた観客も目を覚ますぐらいのインパクトがいるねん」

「はい」

「違う。一つ目の振りで観客を睨むくらいの強い目線で一気に自分に惹き込むねん。睨むくらいや、睨むんちゃう。グッといってグワッという感じや。わかるやろ」

 言っていることはともかく、実際に美香が踊って見せてくれると、その圧倒的な表現力とテクニックに心を奪われる。


『東京全国バレエコンクール 第一位』


 若かりし頃、宮崎美香が『エスメラルダのヴァリエーション』を踊っている写真が稽古場に飾られている。写真の中の美香の目に吸い込まれそうな迫力がある。

 国内のコンクールで一位に輝き、その後、国際コンクールで三位を受賞。ロシアのバレエ学校に留学し、海外の舞台で活躍したという美香の経歴が、教室の発表会や公演のパンフレットにいつも載る。そんな美香の表彰状が教室にたくさん飾ってある。

 真美が尊敬する先生だが、その教えの厳しさは有名だ。いつもバレエで使う扇子せんすを持って教える。注意される時は怒鳴り声と共に扇子が飛んでくる。扇子で叩かれる。

 そんな練習が一ヵ月続いた。

 五月のゴールデンウィークはあっという間にやって来た。

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