バトル 怨霊vs安綱

 トシオが水たまりの中に沈みその場から消えた。

「言わんこっちゃない」

 冥は舌打ちし、怨霊に向き直った。

 最恐の力を秘めた鬼といえど、所詮は場数も踏んでいない、知識もないもと一般人だ。

(冥や白蓮、政府の役人などがなんどか知識を教えようとしたが、トシオの理解が異常に悪く、皆が匙を投げた)

 不意打ちで戦力をそがれる可能性も十分考えられた。

 だが、ここにいるのは最強の鬼切と最強の術師の冥だ。二人でも戦闘は続行できる。

 構える冥の横で早紀も安綱を出現させ、刃を抜き放っていた。けだるげな表情は身をひそめ、凛とした顔をしている。


「まずは親子を引き離すか」

 冥が体の前で指を組む。途端に屋上に清冽な気が満ちた。

「何これ」

 恵美が戸惑い周りを見渡す。素人から見ても明らかに屋上の空気が変わった。

 昏い死の予兆が立ち込める空気から早朝の神社の境内のような清らかな空気へと。

 ミコの動きが鈍る。

 冥の能力。怨霊が活動している領域を一時的な聖域とし、怨霊の力をデバフする。

 怨霊が動きを止めたその刹那だった。

「早紀」

 冥が言うより先に、早紀が姿を消していた。

 早紀が瞬間移動でもしたかのように怨霊と親子の間に割って入り、怨霊へ安綱を振るった。

 怨霊がおぞましい悲鳴を上げて後ずさる。

 後ずさった怨霊を追いかけ、さらに早紀が踏み込む。

 鋭い呼気とともに早紀の右腕がぶれる。早紀は安綱を素早く振り切った。

 剣の軌跡が黒い残像となり、怨霊を切り裂く。

「いだいいいいいいい」

 怨霊が呻いた。切り裂かれた傷口から緑色の汚水が吹き出している。

 早紀は間髪を入れず、さらに踏み込むと、今度は下から上へと跳ね上げるように安綱を振りぬく。


「こっちだ。助けに来た」

 冥が恵美と莉生に近づき、その身に触れる。その瞬間、二人とも憑物が取れたかのように体が軽くなった。

 親子は冥の誘導でトシオが蹴り壊した扉の陰に避難する。


 庇うものがなくなった早紀の動きがさらに激しくなった。

 安綱が縦横無尽に舞い、その度に怨霊の体が襤褸雑巾のようになっていく。


 早紀は安綱を上段に振りかぶり、怨霊の脳天へ振り下ろした。

 鈍い音とともに、ミコの頭が真っ二つに割れ、崩れ落ちる。


 早紀はためた息をはきだし、肩の力を抜いた。だが、

「まだだ早紀!」

 冥の声が響く。

 同時に早紀は自分の直観に従い半身を引いた。

 先ほどまで自分がいた空間を黒い水の濁流が走り抜ける。

 いつの間にか早紀の背後にもう一体の水死体が出現した。

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