潜入 あるいは 同居人のこと

 早紀ちゃんの顔から再び笑顔が抜け落ちた。

「そりゃこうなりますよ。完全変態の鬼が生まれて、しかもそいつが目の前でやりたい放題なんですから」

 早紀ちゃんが部屋へ歩きだしたので俺とビデオ女もその後に続く。

「そして認めがたいことですが、私の力はあなたには遠く及ばない。そりゃ面白くないに決まってるじゃないですか」

「なんかごめん」

 早紀ちゃんは鼻を鳴らした。なんか逆に素直で真っ直ぐな子だな。だいぶ。

 団地の一室というにはやたらと広い。キッチン、ダイニングの他に小さな洋室が二つもある。奥に行くと小さな女の子が出てきた。おかっぱの和装の少女。

「あれ?子供?」

 女の子は鼻をフンと鳴らして片手を差し出した。

「冥という。こう見えても90年以上は生きている現役の術師だよ」

「へえ、90年か」

 俺は少し感心した。

「長生きなんだな」

 冥は不服そうに俺の手をぺしっと叩いた。

「私を子供扱いするのはやめてほしいね。年長者を敬いなさい」

 めんどいな。というか、この顔どこかで見たことあるな。

「どこかで会いました?」

 俺が頭を傾げていると冥の表情が曇り、目が泳いだ。

「あー、あのな。あの七人ミサキの時にお前さんに助けられた内の一人だよ。」

「そうか、そういえばそんな気もする」

 俺は思わず笑って冥の頭を撫でた。

「や、やめろ!」と冥は俺の手を払う。

「私は子供ではない!年長者を敬えと言っただろう!」

 早紀ちゃんが横で耐え切れずクスクス笑うので冥がまた怒り出した。

「でも、分かりました。先輩。ご指導よろしくお願いします。」

 俺は手を差し出した。冥はフンと鼻を鳴らして俺の手を握った。

「ああ、任せておけ」

「トシオ君の寝床はあそこね」

 早紀ちゃんが指さす先を見るとリビングの隅に平べったい布団が引いてあった。

「俺の個室とかないんすか」

「ないよ。冥様と私が部屋を使うし、トシオ君が寝るとこここしかないからさ。」

 人権ないな。


「で、二人も強い人がいるんでしょ。俺なんかが居ても何の役にも立たないんじゃないすか」

 俺は二人とテーブルを囲んでお茶をいただいていた。

 ビデオ女は俺の布団に潜り込んで横になっているので放置している。あいつ、枕に汚水とかつけてないだろうな。

「一応、我々も悪霊や怨霊を狩るプロではある。だがな、私では悪霊の居場所を特定することができないんだ」

 と冥が言った。

「特定できないって?」

「団地内のどこかにいるんだろうが、場所がわからないということだ。拠点としている場所も不明。今までにも大規模な探索が何度も行われたが痕跡しかつかめない。」

「でも、トシオ君が来て状況が変わった。トシオ君自身が怨霊。だから我々人間では分からない視点から悪霊を探し、必要があればその場で退治もできる。」

 早紀ちゃんは相変わらず俺を見ずに、つまらなそうに言った。

「自信がないけどな。」

「お前の目は呪いを糸として見れるそうじゃないか」

 冥はニヤッと笑った。

「それが手がかりになるんすか」

「悪霊や怨霊がその団地に居着いているなら、必ずその残穢が残っている。それをたどれば居場所がわかるだろう」

「なるほどです」

 俺は頷いて見せた。ザンエってなんだっけ?鳥のから揚げにそんなんあったよな。

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