兵士あるいは女王様

 俺はビデオ女と浴室に取り残される。すぐに大勢がガタガタと階段を上る音がし、浴室のドアが蹴り開かれた。

 そこから入ってきたのは2メートルほどの巨体。ガンダムのようなスタイルの兵士だ。全身を金属の鎧で包み、ずんぐりむっくりとした手足には様々な銃器が取り付けられ、背中にはバックパックのような大きな武装ユニットを背負っている。

 胸には1と大きくマークしてある。なんの1だ。1号?

 呆然とする俺を無視して1号は複数の銃口を向け、俺に向かって一斉に発砲した。

 銃声に思わず俺は耳を押さえうずくまるが、弾丸の群れは俺の体の前で止まっている。まるで透明の壁ができたみたいに俺の手前の空中で弾が制止しそれ以上こちらに進まない。

 鎧の後ろからまたもや重装備の鎧達が入ってくる。彼らも銃器を構えており、その標準は俺に向いていた。ちなみに胸には2,V3とマークが入っている。

 俺は慌てて手を上げる。

「まてまてまて俺は人間だ」

 兵士達のスコープ越しの目が俺の蝋人形のような色の顔面と、俺の手前で止まった弾丸を交互に行き来し、再び銃器を構える。

 話が違う。俺を迎えにきたおっさんの仲間じゃないのか。はめられた?

「待てお前ら」

 兵士達の奥から声がした。自衛隊のソルジャー部隊みたいな奴らに守られて背の高い女が歩いてくる。すこしきつい感じのする美しい女だ。SMクラブなら女王様として人気が出そうな。

 女は右目を眼帯で隠していた。眼帯をしていても美しさは損なわれない。

 綺麗だ。俺は思わず見とれてしまう。集中力が途切れたからか俺の前で空中に制止していた弾丸達がカラカラと音を立てて地面に落下した。

 彼女は俺から離れた位置で立ち止まり、ビデオ女と俺を静かに観察した。そして眼帯をおもむろに外すと、目を見開いて俺を見る。

 俺は思わず声を上げた。眼帯の下の右目には金の瞳孔が2つ横に並びギラギラと輝いていた。その目は人間じゃない。俺は直感的にそう思った。

 右目の金の目が俺をとらえた瞬間、俺とその女の間に蜘蛛の糸のような細い糸が無数に張り巡らされる。その瞬間、俺の体に重圧がかかり、俺は膝をつきそうになる。この糸か。この糸が原因か。

 指で触ると一瞬で糸が溶け消えた。女が感心したように目を見張る。

「お前、私の術を無効化したのか。」

 俺は答えない。答えようがない。

「お前、名前は」

「鵺野トシオだ」

「トシオ、、お前は人間か」

「人間だ」

 女はじろじろと俺の恰好を見て、それからビデオの女を一瞥した。

 何かを探しているのか。

「おい、ここで何があった」

「変な女に襲われて。」

「その女は?」

「あ、あー。」狐野のおっさんはどこ行った?素直に言っていいのか?

「なんか死んだよ」

「死んだ?」

「そう、俺、じつはあそこにいる、呪いのビデオの女にたたられてるんだ。で、この洋館にいる悪霊とそこのビデオの女を喧嘩させて、相打ちを狙ってたんだけど。洋館の悪霊が死んじゃって、ビデオの女が勝っちゃた。」

 嘘は半分しか言ってないよな。

「あの女はお前についているようだな」

「そう」

 女は浴槽の血だまりと俺の服を見た。

「その血は誰のだ」

「え、あの洋館の悪霊の返り血じゃないすかね」

 女はしばし考え込んでいたが、俺に手を差し出した。

「ひとまず我々と共に来てもらう」

 俺と女は睨みあう。その時間はやけに長く感じた。

「わかった。」

 俺は差し出された手をつかみ、女に引かれるまま歩き出した。

 1号、2号、V3の鎧が道を開け、俺達を通す。

 俺達の後ろからはビデオ女がとことこと憑いてきていた。

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