お邪魔します あるいは単なる不法侵入

 俺の前には洋館がそびえたっている。なんか金持ちが住みそうなでかい家だ。

「ここで合ってるよな」

 狐野のおっさんから教えられた住所どおりならここのはずだ。廃墟って感じはしない。それなりに手入れもされているように見える。

「ここに入るのって不法侵入だけど」

 門は既に鍵が壊され、不法侵入が繰り返されている形跡があった。肝試しに来たやつらが残していったものだろう。

 まあいいや。横断歩道みんなで渡れば怖くない。いや違うか、赤信号みんなで渡れば怖くない。ってやつだ。みんなしてるし、俺だけじゃないし。

「失礼しまーす」

 俺はいそいそと洋館へ上がりこむ。女も扉を通り抜けて俺についてきた。


 玄関ホールは広く、天井も高い。吹き抜けっていうのかこういう構造。

 エントランスから2階へ上がる階段が左右に伸びていて、階段の踊り場にはよくわからない高そうな絵と、空の花瓶がおいてある。

 誰もいないのかな。そりゃそうか。

「すいませーん。」

 大声を張り上げてみるが、シーンとしている。とりあえず、ここをうろついて怨霊とやらが出てきてくれるのを待つしかないか。

 俺はおっさんに言われた言葉を思い出していた。

 

 〇〇〇


「化け物には化け物をぶつけるんだよ」おっさんはにやりとして言う。

「化け物をぶつける?」

 おっさんの言っていたことをまとめるとこうだ。えーと、なんだっけ?

 〇〇〇


 俺にとりついているこの女。ビデオ女はターゲットに取り付いて7日後に殺す。その間は逆に何があっても死の運命は回避される。そして、7日が過ぎた後、女はターゲットの魂を食う。

 ただ、この死の運命が回避されるというのが曲者で、無敵状態というわけではないらしい。中には事故で体がうごかせなくなり、逃げることもできないまま怨霊に殺される日が来るのを待っていた奴もいたらしい。

 唯一この生き地獄から逃げられる方法は自殺だけ。胸糞悪い。

「なんでそんなこと知ってんの?」

 俺がそう言うとおっさんは目をそらした。

「俺らの業界でその呪いのビデオはいわくつきなんだよ。何人もの人間が犠牲になり、何人もの霊媒師や退魔師が立ち向かった。でも退治できず行方も分からない。

 いつも対応は後手に回り、取り付かれて死を待つだけの奴らが泣きついてくる。そいつらがなすすべなく泣き叫びながら死んでいくのを俺らは見ることしかできない。」

 おっさんはため息をつきまたコーヒーを飲んだ。

「だがお前はまだ絶望もしていないし、狂ってもいない。たぶん。だから」

 おっさんは俺にとりついている女を指さして言った。

「選べ。このまま死ぬか俺の賭けにのるか」

 この都市のはずれに立つ黒い洋館。立ち入る者全てが無惨な死や事故に見舞われる最恐の曰くつき物件。そこに入りわざと呪われる。そうすると俺に取り付いたビデオの女は自身の得物を横取りされたことに激怒する。俺を殺そうとする洋館の呪いとビデオの女がつぶし合いをし、運が良ければ俺は助かる。

 おっさんが出した計画はそんな荒唐無稽なものだった。

「そんな上手くいかんだろ」

 おっさんはうなずく。

「でもダメでもともとだ。お前はこのままではいずれ死ぬ。それならダメ元でやってみればいい。」

「無責任だな」

 おっさんは笑う。

「今までこの国の霊媒師が何人そのビデオに立ち向かったと思ってる。正攻法じゃ無理なんだよ」

 おっさんは俺の顔を覗き込んだ。

「もちろんうまくいく保障はないが、何もせずにこのまま座して死を待つか、それとも俺の話にかけてみるか、お前が選べ」

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