片翼の翼 真実の愛を貴方に
髙龍
第1話
エーリッヒ・ドライツァーは帝国の誇るエースパイロットだった。
だが、彼は追い詰められていた。
相手は戦争相手である共和国の凄腕パイロットだった。
この凄腕パイロットに帝国の誇るパイロットが何人落とされただろうか。
激しい空中戦を繰り広げていたがどうやら自分もその仲間入りのようだ。
相手の機関銃がエーリッヒの操る戦闘機に命中する。
何とか命は助かったもののこの状態では戦闘を続行するのは不可能だろう。
エーリッヒは機体をできるだけ安定させ脱出装置を起動する。
ここは敵地の中だ。
戦争は帝国有利で進んでいるがそれでも安全とは言えなかった。
エーリッヒが脱出した先は農村だった。
戦略的には何の価値もない場所だ。
地面に着地して現状を確認する。
エーリッヒは右太ももを負傷していた。
どうやら相手の機銃の直撃を受けたようだ。
歩くのもままならない。
この状態で敵に見つかれば逃げ切るのは不可能だろう。
ガサガサと音がする。
エーリッヒは自衛用に持ち歩いている拳銃を腰のポーチから取り出して構えた。
植えられている小麦をかき分け、現れたのは1人の少女だった。
「あの・・・。大丈夫ですか?」
そう少女は語り掛けてくる。
「君は私が怖くないのか?」
「怖いですよ。でも、怪我をしている人を放置なんてできません」
そう言ってエーリッヒが構えた拳銃を無視するように少女は近づいてくる。
エーリッヒは戸惑った。
敵兵なら迷わず撃っただろう。
だが、こんな少女に拳銃を構えたからといってどうなるものでもない。
「捕まってください」
そう言って少女はエーリッヒの心の中など関係ないとばかりに体を支えてくる。
「あぁ・・・。すまない」
少女はかなり痩せていた。
エーリッヒは痛む足に力を入れる。
かなり痛むが少女に負担をかけないように必死に歩いた。
連れてこられたのはボロボロの家だった。
「ここは・・・?」
「私の家です」
「ご家族は・・・?」
「父と兄はわかりませんけど母は1ヶ月ぐらい前になくなりました」
「そうか・・・」
少女の父親と兄は徴兵されたのだろう。
地上戦には詳しくないが激戦だと聞く。
恐らく生きてはいないだろう。
「まずは傷の手当てをしますね」
そう言って少女はエーリッヒのズボンを脱がしにかかる。
血に濡れたズボンは脱がしにくいのだろう。
かなり苦戦していたがそれでも少女は諦めなかった。
「酷い怪我・・・」
そう言って少女は水瓶から水を汲んできて傷口を洗う。
傷口を洗われると刺すような痛みが襲ってくるがエーリッヒは歯をがっちりと噛んで痛みに耐えた。
「すみません。ここからどうしたら・・・?」
医療物質などは最優先で軍にまわされる。
こんな農村にはないのだろう。
エーリッヒは腰のポーチから消毒用のアルコールを取り出し自分で傷口にかけた。
エーリッヒは思わず「うっ」と声を出す。
「大丈夫ですか?」
「あぁ・・・。すまない。だが後は自分で出来る」
そう言ってエーリッヒは痛み止めとしてモルヒネの入った注射器を出すと自分の足に投与した。
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