55話 記紀の予感
「………どうしたの、機嫌悪そうな顔して」
秋季蘭はいつも通りラフで楽な恰好筆頭であるジャージを見にまとい縁側に一人たたずむ記紀に話しかける。
「まーた、あいつが帰ってこないか浸ってるわけ?今日も帰ってこないわよ、ほらご飯できるから、来なさい」
「嫌な予感がする」
いつもなら秋季を蹴り飛ばしてでも、ごはんのある方へ走る記紀が今日ばかりはそうはせず、ただひたすらに、穏やかに、先にある空を見て物思いにふけっている。
「どうしたの急に、お腹でも壊した?」
「魔物はお腹など壊さん、ただ嫌な予感がして食欲がわかないだけだ」
「えー、あんたにそんなことあるんだ」
「さっきからうるさいぞ蘭、ひねり殺されたいのか」
「やれるもんならやってみなさい、まぁともかく食欲ないならあんた一人で準備して後で食べなさいよね、私はもう食べるから」
手をぷらぷらと横に振りながら秋季は廊下を曲がりキッチンの方に向かっていった。
それを記紀は横目で確認した後、ぼそっと口走る。
「すまないな、蘭」
そして、とぷんと自らの陰の中に溶け込み、空気に溶け込んでいった。
縁側には誰もおらず、閑散とした空気だけがただ流れていた。
・
場面は変わり、魔物と交戦中の千賀南と神田唯人に移る。
(でもこの子はあの榊原理央と肩を並べて戦えてた、勝機はあるかも)
千賀南はそう楽観的な予想を立てていた。
確かに目の前にいるB級の魔物はいたずら小僧によって改造されて、理性はなく、他のB級よりかは幾分かやりやすい相手ではある。
だがその憶測は間違いである。
榊原理央との鍛錬中神田唯人がまともに戦えていたのはひとえに魔力の共有を彼女と行っていたからである。
魔力の共有をすることで魔力の差はなくなっている。
ということはつまり、彼女自身のただの技量の押し付けのみで神田唯人は負けていたのだ。
神田唯人自身も成長はしている。だがそれはB級に余裕で勝てるほどのものでは決してなかった。
「先に言っておきますけど私の実力はあてにしないでくださいね」
「え」
無論神田唯人もそれを分かっている。だからそう口にする。
千賀南は意味が分からず首を傾げている。
さてさて、二人は悠長に話をしているがそんな会話を腹をすかせた魔物が待ってくれるだろうか。
答えは否である。
「ぐらぁぁぁぁぁっ!!」
鋭利な牙をむき出しにした魔物が神田達に向かって飛び掛かっていく。
成すすべなく吹き飛ばされる神田唯人。
「かはっ」
背中を柱にぶつけてしまい、乾いた息をもらす。
「神田ぁぁぁぁっ」
南はそれを目で追うことすらやっとだったのか、数瞬遅れて叫ぶ。
「くっそ、もうやっぱ強いな」
ギリギリ強化魔術を展開することに成功していたのか、ダメージは最小限に抑えられている。
とはいっても痛みは感じるのか顔を歪めている。
「ぐらぁぁぁっ」
「なめんなおらぁぁ」
追い打ちをかけにきた魔物に向かい蹴りを一発顔面に打ち込んだ。
魔物は数メートルほど吹き飛んで神田と同じように壁にぶつかった。
「はっ謙遜じゃん」
その強さを見て少し余裕が生まれたのか、千賀南は少し笑みを零す。
あぁ、甘い甘い、B級がそんな易々と倒せるはずがないのだ。
「謙遜なんかじゃ、ないですよ………」
「っ、それ、いつ」
「さっき顔蹴ったときやられました」
見ると神田のスネからは血が滴っていた。
それを見たせいか千賀南も血の気が引いてしまう。
そう余裕なんか初めからない。それを分かっていてもどうしても余裕を欲してしまうのが人間の性というものなのだろう。
だがその落差による絶望はより酷いものになる。
「はぁ、はぁ、ふぅ、千賀様一つ頼みがあります」
「頼み?」
「私と契約してください」
「はぁ?突然何言いだして?」
「私にはギフトがあります、それは他人と魔力を共有できるというもの、ですが人からの許可がなければ共有することはできません、ですから契約をっ!?」
話している間に柱から抜け出した魔物が再び神田に噛みついた。
それを腕で止めるものの、魔物も魔物で牙を離す気はないようで、神田の腕に牙が食い込むのを今か今かと待っている。
「するっ契約する!!!」
それよりも早く千賀南は神田唯人の要望に応えて見せた。
それを聞いて口角を上げる神田。
「反撃だ」
さきほどよりもぐんと増えた魔力を使用して、今度こそ魔物をノーダメージで吹き飛ばす。
魔力量は五分、いや若干魔物側の方が高いだろう。
後はどう技術で埋めるかの勝負であるが………。
「勝ちますよ」
その差を埋めるだけの自信が彼にはあった。
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