第20話 アルファインの一番欲するもの

「………ちっまさか冬賀家が集まってるなんて」

暗い暗い路地裏、太陽の光すら高いビルのおかげで遮断されているその場所でアルファインは一息つく。


「ぬかった、あの小僧を殺すのに集中しすぎて力を抑えるのを忘れていた」

自分の失態を恥じ頭を自分でぽんっと軽く叩く。


体はあらゆるところに傷がついていて満身創痍とまでは言わなくても歩行に問題が出るくらいにはダメージが残っている。


「だがそれはもういい、問題は怠惰とあのクソガキだっ」

悔しいのか唇を血が出るほどに強く噛む。

「………怠惰がいなければピンチになった秋季様を救うのは私のはずだった、だが結果的に秋季様を助けたのはあの神田というガキだった、あぁぁぁぁぁ!なぜなぜぜ!入念な準備をした私の計画が破綻しなければならない!」

わしゃわしゃと髪をかきむしる。


当たることができない怒りを口にすることでなんとか抑える。


「秋季様以外の魔術師が仕事をしている状態にするように他の魔物をけしかけ、ようやく引き付けたというのに、あぁぁぁぁ!」

自分の努力がすべて水の泡に消えたことがよほど堪えたのか憤慨を抑えることをせずただただ叫び続ける。


「………あのガキ、あのガキぃ怠惰の野郎にも気に入られていた」

思い返すは怠惰、つまり銀髪の美少女記紀と戦っていた時の記憶だ。


「はっはぁっ!楽しいなぁ怠惰ぁ!」

「………それはよかった」

怠惰の能力感情操作によってハイな状態にされたアルファインは当初の目的である秋季蘭をまるで英雄のように救う作戦を忘れていた。そのせいでただ人と戦うだけの肉人形と化していた。


「………記紀ぃ!戻ってこぉぉい!!!」

そんな戦いの最中遠くから聞こえる神田唯人の声、それが聞こえた瞬間さっきまで険しく眉をひそめていた記紀の顔が朗らかになる。


その顔は愛しいものを考えるように妖艶に微笑んでいる。


潤った唇を動かし真っ直ぐとアルファインを見つめる。

「………そうか、生きていてくれたか」

それは神田唯人がまだ生きているという証だった。その事実だけでほっと胸を撫で下ろせる。


「戦いは終わりだ、私はあいつの元に帰る」

「ははぁ!帰ってどうする!?何ができる!?ここは私の世界、私が世界を壊す以外にここから出る方法はなぁぁい!」

これでもかと思うほど上を見上げて目に血を走らせる。


「あいつなら何か成し遂げられる」

「はっ!根拠のない信頼は首を絞めるぞ!」

「根拠ならある」

そこで一度記紀はほんの少し笑う。


それがやけに不快に感じて、アルファインは眉を顰める。


彼を襲ったのは言葉にすることができない憤りだ。


今記紀が持っている感情は自分に向けられたものではない、たった一人のひ弱な少年に向けられたものだ。


それが首を掻きむしってしまうほど許せない。


考えれば考えるほど虫唾が走る。


それは自分が欲しているものだから、自分には与えられていない感情だから。


自分の中にあるその感情を欲する強欲を煽られた気がした。


「このわしが好きになった男、それだけで根拠足りえるだろう」

照れるそぶりもなくにかっと清々しいほどの笑顔を見せつけてくる。

「ふっざけるなぁぁぁっ!!」

怒りに任せた一撃で記紀に襲い掛かる。


当然それをいなすの簡単で片手で弾いてから蹴り飛ばす。


「じゃあな強欲、その満たされることのない強欲を一生抱えて生きていくといい」

それだけを言い残し記紀は自分の相棒の元に戻っていった。


「あぁ嫌なことを思いだした」

回想を終えたアルファインはズキンズキンと痛む頭を抱えながら壁伝いに外に向かっていく。

「殺す、殺す、殺す、私以外に秋季様の寵愛を受ける存在は全員殺す」

「あのだいじょっ」

苦しくしていたアルファインを遠くから見て心配した通りすがりのおばあさんが話しかけてきた。


だがそのおばあさんを問答無用で頭から食す。人の限界を超えるほどに口を開け、丸のみしていく。


食事にかかったのはおよそ数分、路地裏だったということもありそれは騒ぎにもならなかった。


「あぁぁぁぁぁ、体力回復したらまずはお前を殺す神田唯人っ」

痛みすら感じる鋭い視線が遠く離れた一人の下人に向けられた。



ここは多くの魔術師が入院する魔術協会直轄の病院、日夜怪我が絶えない魔術師という仕事においてこの施設はかかせない場所となっている。


毎日せわしなく職員が働き、なんとか魔術師の命を繋いでいく。


だがそこに魔術師ではない存在が運び込まれた。


あまりに不相応な待遇に運んだ職員すら眉を顰める。


「あの、この人って下人ですよね、ここまでする必要あります?」

神田唯人を乗せたタンカを運んでいる職員の一人が愚痴のようにこぼす。

「知るか、俺達にできるのはただ上からの命令を聞くだけだ」

同じようにタンカを持っている先輩のような人が咎めるように答える。


「あ、こちらにお願いします」

すると彼らの行先で担当の医師のような人が手招きをしている。


彼は半袖の緑の服を着ていてマスクを着用していて物腰柔らかそうな細い目に丸眼鏡をかけている。


「………ではお願いします」

その医師に神田唯人の体を任せる。


医師の名は林田元吾はやしだげんご、世界の名医100人に選ばれる凄腕の医師にして回復魔術にも精通しているトップクラスの魔術師だ。


彼の医療技術と回復魔術の合わせ技は神の御業とも言われており今までで約350人の患者を救ってきた。


名実共に完璧な彼だが一つだけ弱点があった。

「救いましょう、キャバクラに行くために」

それは彼がキャバクラ狂いということであった。









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