20 ステータス

 鏡に映る僕の右耳。

 そこに留まる、小さな銀色の……。


「……イヤリング?」と呟きつつ、次いで、思い起こされる昨日の記憶。


【崩落溝】への転移ジャンプ間際まぎわ

 まるで幻と思うくらい、冴え冴えした青空に、交差点。後ろに立つ、人の気配。

 そして、――耳に留められた何か。


 なるほど、コレがあの時のか、と理解する。


 触ってみれば、軽い感触。

 無色透明の宝石が揺れる、シルバーの小さなイヤリングだ。

 控えめで繊細な、可愛らしいデザイン。

 ……なのだが、まぁ明らかにレディースのアクセサリーである。成人男性、かつ陰な僕が付けていたら、似合わない事この上ない(正直、かなりヤバい人になってる気がする)。


 よって、すぐにでも外そうと思ったのだが、――あれ。


「外れ……ない……」


 まるで根があるかのように、金具が微動だにしない。



『おそらく、【魔法具マジック・アイテム】と思われますニャ』


 とは、シャルロットの見立てである。


 20時を少し回るくらい。

 残業しての退勤後、自宅の最寄り駅からの帰途きとたずさえた鞄からちょこんと頭を出すシャルロットは、僕の話を聞くだに、そう答えた。


「【魔法具マジック・アイテム】ねぇ……」


『ええ。あるいはそのような魔法か。聞く限り、それらのいずれかと考えられます、ニャ』


「うーん……。ちなみに、思い当たる【魔法具マジック・アイテム】とか、魔法とかってあるのかな?」


 早足で歩きつつ、僕は続けて質問。

 朝からこっち、けっこう待ちわびた会話なのである。というのも、退勤後のいまになって、ようやく会話ができたのだ。


 既に、周囲の閑静かんせいな住宅街は、すっかり夜に沈んでいる。静寂を背景に、シャルロットは、少し考え込んだ。


『【魔法具マジック・アイテム】でしたら、いくつか。……例えば、耳への固着は【固執こしつの耳飾り】、認識阻害は【隠蔽紋オブスキュレーション・サークル】などが考えられますニャ。必要な場合、列挙もいたしますが、――いずれにせよ、ボクがということは、相応の要因と、意図があるかと』


「うん。たぶん……」固着についてはいいとして、認識阻害については、きっと――。「が目的、かな……。で、逆に言えば、僕にだけ見えてるのは、隠せなかったか、隠す必要が無かったか、……あるいは」


 あえて、、か。


 僕は、しばし逡巡しゅんじゅんする。


 ……あー、ええと。

 なぜこんな話になっているか? なのだが。


 このイヤリング、どうやらシャルロットにはらしいのだよね。


 どういうことかと言うと。

 先刻、このイヤリングについて訊いてみたところ――。


『イヤリング……? らしいものは見当たりませんが、ニャ』


 と言われたのだ。

 で、よくよく聞けば、シャルロットからは、僕の耳には何もついていないように見えるのだとか。そんな経緯で、『【魔法具マジック・アイテム】か、魔法かも?』、――なんて話になったのだよね。


 ……さて。

 外せないなんて、なんだか呪いの装備っぽいし。変な機能が付いてたら嫌ではあるが……。ま、外せない以上は仕方がないので、この件も保留だね。そう、頭の隅に追いやってしまおう。


 で、話は変わるのだが、――ようやく、メニューやステータスの見方が、だいぶわかってきたのだよね。


 僕は、『メニュー画面の表示』をイメージ。

 すると、――フォン、という効果音と共に、薄青い半透明のアイコンが横並びにいくつか現れる。


 手元に並ぶうちから、『ステータス』のアイコンを見つけてタップ。

 すると画面が切り替わり、次のような表示がなされるのである。


■契約番号: 003352

■登録名: えにし

■担当カラー: 黒

■魔力特性: 質量

■レベル: 35

■ベースステータス:

・魔力総量: 189

・魔力代謝: 91

・魔力出力: 204

・認識力: 145

・認識精度: 151

■配分可能ポイント: 102

■刻印容積: 100(使用中:0)

■使用可能魔術(固有魔法グランドスペル):

・(なし)

■使用可能魔術(汎用魔法ゼネラルスペル):

汎用魔法ゼネラルスペル・黒:付与エンチャント黒焔こくえん

汎用魔法ゼネラルスペル・黒:付与エンチャント呪氷じゅひょう

汎用魔法ゼネラルスペル・黒:障壁】

汎用魔法ゼネラルスペル・黒:強化リインフォースメント・運動性能】

汎用魔法ゼネラルスペル・黒:投射】

汎用魔法ゼネラルスペル・黒:波濤】

汎用魔法ゼネラルスペル・黒:小領域】

汎用魔法ゼネラルスペル・黒:顕現・小剣】

汎用魔法ゼネラルスペル・黒:顕現・炎の剣フランベロジュ・片手剣】

汎用魔法ゼネラルスペル・黒:顕現・炎の剣フランベロジュ・両手剣】

汎用魔法ゼネラルスペル・黒:顕現・投擲槍ジャベリン


 ………。


 ……うん。

 レベルとか、魔法とかはまぁわかるんだけどさ。それ以外の項目が全然意味不明だよ。


 えーと、……『配分可能ポイント』てのは、たぶん、ステータスに割り振れるポイントっぽいよね。


 で、『魔力総量』というのは、読んで字のごとくだろう。


 しかして、それ以外の部分が全然わからない。

 後でまた、シャルロットに魔法少女講座を開講して貰おうかな……。


 ……あ、魔法少女講座と言えば。

 昨晩、全てスキップした『初期設定』のやり直しとかも、メニューからできそうだよ。


 例えば、――メニューの中から、『サポートロイド設定』をタップ。

 現れるのは、昨日少しさわった、シャルロットの外見設定の画面だ。


 で、ほかにも、――コスチュームとか、変身バンクの有無(こんなのもあるんだね……)とか、変身用のアクセサリーだとか、僕自身についても色々変えられるみたい。


 特に、変身用アクセサリーは、僕の右腕、バングル形式のほかには、イヤリング、カフス、ネックレス、リング、などなど、……たくさんの種類から選べるようだ。デザインも、かなり自由にいじれるらしい。


 うん、正直これは、ゲーマーとしては、ちょっと凝りたくなってしまうかも。


 変身用アクセサリー設定に付随ふずいして開いたプレビュー画面に映る、黒ずくめ、黒髪美少女のえにしちゃん。

 それを左右にスクロールしてクルクル回転させながら、どんな魔法少女にしようかな、なんて妄想するのだった。


 ――や、別に、真面目に魔法少女やるつもりも全然ないけどさ……!?



 さて、そうして帰路を辿たどりつつ。


 いつものように、コンビニ弁当とサラダチキンを買って、人気ひとけの少ない夜道よみちをトボトボ家に帰っていると――。


「――あ」と、声が漏れる。


 ふと、思い出したのだ。


 目の前に伸びる、人気の少ない、静かな夜道。

 ぽつぽつ街灯が点る道の、この先は、……確か。


 ――昨日、僕が横殴りの衝撃を受けた道だ。


 思わず、僕は立ち止まる。


 事故(?)現場に、正直躊躇ためらってしまったというのもあるのだが、――もうひとつ。

 いま、道の先に誰かがいるのである。


 街灯の足元で、その青白い光に照らされる、高校生っぽい制服姿の二人組。


 片方は女の子だ。

 ブレザーに、膝丈のプリーツスカート。


 そして、もうひとりは、……んん??


 髪が長めで、ちょっと一瞬わからなかったのだが。よく見るとスラックスを履いている。……ってことは、男の子かな?


 そして二人とも、周囲をきょろきょろ見回しており、何かを探している様子で、……。


 ……あ~。うん。


 別に、コレと言った根拠はないのだが、なんだか猛烈もうれつに、予想がついてしまった。


 この場所で、かつ、二人組。


 つまり、きっとだよね……。


 僕はゲンナリする。……どうするかな。

 ていうか、あの二人、高校生だったのか……。

 うーん……。

 ………。


「…………よし」


 と呟き。ひねくれ者な僕は、迂回うかいを決め込むことにする。


 つまり――。


 見なかった事にしよう……。


 そうして、僕がそっときびすを返しかけたとき――。


「あーーーッ!! やっと見つけた!!」


 女の子がこちらを向き。そんな声が、夜の住宅街に響き渡るのだった。

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